誘致・開催レポート

仙台を世界最先端の生体防御システム科学の拠点に!
The Environmental Response VI(第6回環境応答国際シンポジウム)

国際会議を継続して主催し、世界から研修者を招聘する取り組みを実施してきた環境応答国際シンポジウムが2023年11月に仙台にて開催されました。
2005年に始まり、以降、日本で開催されてきた同会議。2019年の第5回以来の開催に、海外からも多くの参加者が集まり、活発な議論と滞在中のアクティビティを通じて充実した会議となりました。
生体防御システムをテーマとする唯一の国際会議を主催、リードしてきた組織委員会の山本雅之委員長にお話をうかがいました。

東北大学 教授 東北メディカル・メガバンク機構 機構長 山本 雅之 教授
東北大学 教授
東北メディカル・メガバンク機構 機構長
山本 雅之 教授

会議概要

会議正式名称 The Environmental Response VI(第6回環境応答国際シンポジウム)
開催期間 2023年11月3日~11月5日
開催都市/会場 仙台 / 東北大学医学部 星陵会館
参加者数 142名
ウェブサイト https://www.nrf2-vi.com

「科学立国日本」につながる開催意義の高いシンポジウム開催

学問とは、研究成果を発表し、意見の交換を通して発展するものであり、まさに国際会議がそうした場であると考えています。国際会議を主催することは、その科学分野において先進国であるという一種のステータスであり、かつては、私も欧米で開催された生命科学分野における著名なカンファレンスで研究成果を発表していました。こうした経験から、国際会議を新たに立ち上げ、世界中の研究者を集めて最先端の成果を発表する機会を日本に作り、日本を満喫しながらサイエンスの議論を深めてもらいたいと考えました。

このシンポジウムの参加者は、基本的に各国での成果発表の重要性を理解しているWorld Travelerであるため、日本への長距離移動に難色を示すことはありませんでした。むしろ、日本にはなかなか訪れる機会がないため、旅費を援助し、もっと多くの科学者が日本を訪れられるようにするべきだと考えています。

また、日本は科学立国を目指しているわけですから、国際会議を主催し、欧米のカンファレンスと同じように、世界の科学者を正当に評価し会議に招待することで、次の科学者を育てる役割を担っていくべきではないかと考えています。

会議が行われた東北大学の建物外観
会議が行われた東北大学の建物外観
参加者の様子
参加者の様子

環境応答科学が世界にもたらすインパクトやレガシー

「環境応答」とは、環境から来るさまざまなストレスに対して、私たちがどのように応答して生きているかを明らかにしようという学問です。これまで「生体防御のシステムをどのように使い、体を守っているのか」というメカニズムを一生懸命研究して解き明かしてきました。現在はさまざまな環境ストレス反応に関する研究が創薬にも結び付くようになっています。すでにアメリカでは、生体防御システムを標的にした薬が2種類認可されています。特に多発性硬化症の治療薬は、5年~10年後には世の中で活用されるようになると考えています。

マウスが宇宙遊泳する映像を公開 ~インパクトある市民公開講座~

会期中に、JAXAと連携した市民公開講座「宇宙と健康」を開催しました。無重力状態では、筋肉が衰えることは分かっていましたが、この宇宙ストレスと言われる現象が生物に加齢変化を起こすことも分かってきました。今回、個室で生活できる飼育装置に入れたマウスを宇宙に送り、個体の食事量や排泄量などを徹底的に観察した結果、宇宙でも地球の1/6程度の重力を人工的にかけることで老化を防げることが分かりました。市民公開講座では、仙台市天文台と連携し、講演会の様子をライブで配信しました。JAXAが行っている宇宙マウスミッションの説明では、マウスが宇宙を漂う映像も流れ、参加者にとっては非常に印象深い講座となったのではないでしょうか。

市民公開講座の様子
市民公開講座の様子

観光地としての東北のポテンシャルを実感

今回は、会議のエクスカーションとして、松島や瑞巌寺などの観光地への訪問だけでなく、震災遺構や東北メディカル・メガバンク機構の地域支援センターへの訪問など、大変盛沢山のプログラムを設定しました。
松島では温泉旅館に宿泊し、「こんなリラクシングな文化は他にはない」と、温泉の中でも露天風呂が大好評で、温泉に入りながら朝日を見た人たちは特に喜んでいました。
参加者からは、またシンポジウムに参加したいというだけでなく、東北をもっと回ってみたい、蔵王に登ってみたい、フカヒレを食べたいなど、東北で多くのことを体験してみたいとの声が寄せられています。
シンポジウムのコーヒーブレークでは、東北の名産であるシャインマスカットやりんごを提供したところ、参加者にとても好評でした。「食」は観光における大きな魅力ですが、その魅力を知ってもらうためには、現地に来て食べてもらうのが一番だと実感しました。

和食文化を堪能する参加者たち
和食文化を堪能する参加者たち

エクスカーションでは、震災遺構の大川小学校の跡地にも行きました。震災当日お嬢さんを亡くされた方にお話しいただき、震災の時に津波が来た山を実際に登るなど、大変なインパクトだったと思います。参加者全員で自然の脅威を感じ、普段の準備と訓練がいかに大事かを知ることができたという点で大変意味のあるプログラムになり、多くの海外参加者から充実の3日間だったと感謝のメールをいただきました。
最も重要なのは、日本人が自然を大切にし、自然に働きかけて良いものを作っていること、そしてそれを循環させながら営々と文化を作り上げてきたことを、参加者に理解してもらうことではないかと思っています。東北の観光資源の豊かさとその発信の重要性を感じ、これが今後も国際交流に寄与することを期待しています。

エクスカーションの様子(瑞巌寺)
エクスカーションの様子(瑞巌寺)

次世代につなぐ会議開催~研究室スタッフや大学院生が活躍

このシンポジウムでは、事前準備や当日運営に、研究室のスタッフや大学院生が活躍しました。若い人たちが国際会議に関わるのは、一つの人材育成でもあると思います。彼らが将来、日本で国際会議を主催する立場になるわけですから、どうしたら円滑に会議を運営できるのかを体験によって学ぶ機会は貴重です。そしていつか一流の研究者として、巣立っていくのだと思います。
東北大学には、TOHOKU Forum for Creativity(知のフォーラム)という国際交流を支援するプログラムがあり、文部科学省による「国際卓越研究大学制度」令和5年度認定候補に選定されています。私たちの大学は社会課題を解決するさまざまな分野において、研究が長期的に発展して行くための社会のインフラ作りに貢献したいという考えを持っています。このような社会のインフラを築くには国際性が非常に重要であることから、国際会議の開催を通じて国際交流のプラットフォームを構築し、そこで得られた研究成果を世界で活用してもらいたいと考えています。新たな価値観・世界観を創出し、その成果を東北から各国・各世代に伝えていくことで「持続可能で心豊かな社会」の創造を目指しています。

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