「第36回国際影響評価学会年次大会(IAIA16)」を開催して

千葉商科大学政策情報学部学部長、東京工業大学名誉教授工学博士

原科幸彦 様  MICEアンバサダー

国際会議主催者の生の声をお伝えするコーナー。今回は平成28年(2016年)5月に名古屋市で開催された「第36回国際影響評価学会年次大会」で日本委員会委員長を務められた千葉商科大学政策情報学部長、東京工業大学名誉教授の原科幸彦氏に、誘致から開催までの状況についてお聞きしました。原科幸彦氏は2014年、観光庁よりMICEアンバサダーに任命されています。

会議概要

会議正式名称第36回国際影響評価学会年次大会(IAIA16) 
Annual Conference of the International Association for Impact Assessment
開催期間平成28年5月11日から5月14日まで
開催都市/会場名古屋市 名古屋国際会議場
参加者数776名(海外からの参加者数:603名)
参加国・地域数76以上
ウェブサイトhttp://conferences.iaia.org/2016/index.php

立候補について

日本として立候補するに至った経緯をご教示下さい。また、誘致から開催決定までのプロセスについても教えてください。

本学会は世界の約120カ国・地域に会員がおり、年次大会は5大陸を回るような形で1981年以来、毎年開催されています。アジアでの開催は過去に3回(上海、香港、ソウル)ありましたが、日本ではまだ開催されていませんでした。会員からは次のアジア開催は日本でという期待の声が上がっていました。2009年に私は国際本部で日本人初の会長になり、2013年にはこれまでの功績が認められ、国際本部が会員に与える最高賞の「ローズハーマン賞」をアジアで初めて受賞しました。これを機会に国内でも年次大会誘致の機運が盛り上がり、日本の立候補が決まりました。これにはお隣の韓国などの諸国も応援すると言ってくれました。日本国内の開催都市は、当初6都市を候補にし、その後選考を重ねて、最終的には名古屋市に決まりました。2014年4月の理事会(チリ)で立候補のプレゼンを行ない、そこで名古屋は第一候補となりました。その年の秋にはIAIA本部の事務局長らによる現地視察が行なわれました。視察は順調に終わり、翌年2015年フィレンツェ大会で正式に名古屋市での開催が決定しました。

立候補する上で工夫された点をご教示下さい。

開催都市の選考を入念に行なったことが上げられます。当初2016年大会には南アフリカが対抗馬になるとの情報がありました。南アは2012年に国連の「持続可能な開発の会議(リオ+20)」を開催した強豪国で、私達はそこに勝てるための都市を選定しなければなりませんでした。最初はアセスメントの取組が進んでいる6都市を候補に挙げ、入念に検討を重ねて4都市に絞り、提案書を出して頂き、名古屋市と静岡市の2都市に絞り込みました。両市からはさらに詳細な提案書を出して頂き、また、国際会議の開催は受入れ側の熱意が重要ですので、両市の市長にも面談しました。両市とも会場の内容、対応の早さ、市長の誘致への意気込みなど甲乙付け難い状況でしたが、準備委員会での審議で最終的にトータルに判断して名古屋を選考し、理事会でのプレゼンに望みました。南アは形勢不利と見たのか、直前で立候補を取りやめました。

「立候補で成功するための秘訣」は何でしょうか

誘致に協力してくれるサポート体制づくりです。2014年、私はMICEアンバサダーに任命されましたが、その支援プログラムを利用して、IAIA本部の調査チームを現地視察に招請しました。その際、環境省、観光庁、日本政府観光局、愛知県、名古屋市、名古屋観光コンベンションビューロー等の多様な主体が開催を支援していることが理解され、チームは大変満足して帰りました。このほかにもJICAやJETRO、JBIC(国際協力銀行)、日本政策投資銀行等よりバックアップがありましたが、このように強力なサポート体制を主催者に見せるのは、安心感を与えられるので大変効果的です。

会議開催について

会議を実際に開催するにあたって工夫した点をご教示下さい。

3点あります。第一はこの大会を通じて日本の(環境対策に関する)経験や政策を世界にいかに知らせるかでした。今回、開会式での行事として、IAIAの創設者の一人であるチャーリー・ウルフ氏(2015年没)の名を冠した特別記念講演が初めて設けられました。そこで、私は栄えある第一回の講演者として日本の環境政策の進展や、アセスのグッドプラクティスの情報を発信しました。第二は日本の文化やホスピタリティを感じていただき、満足して帰っていただこうというものでした。開会式は琴の演奏で始め、歓迎レセプションでは日本酒の提供などを行ないましたが、特に喜ばれたのは、大会記念ディナーでした。環境アセス関係の研究者の集まりであることを意識して、国際会議場から緑豊かな熱田神宮へ徒歩で移動してもらい、敷地内にある和の雰囲気の会場でフレンチディナーを提供したところ、大変喜ばれました。第三は日本を特に環境面でよく認識してもらうため、ポスト・カンファレンスツアーを観光目的だけでなく、環境学習のためのテクニカルビジットとして企画しました。たとえば、環境アセスメントを経て保全に至ったラムサール条約登録地の藤前干潟や、同じく自然保護に配慮した会場計画が作られた愛知万博の跡地、世界文化遺産に登録された富士山などです。もっとも富士山が圧倒的な人気でしたが(笑)。

会議開催後の感想

会議開催において心に残ったことがありましたらご教示下さい。

当初は日本国内のインパクトアセスメントに対する認識の低さを痛感しましたが、開催に向けて後援やスポンサーの依頼などで個別に当たって行った結果、徐々に理解が進み、結果的に各方面に関心が広まったことを実感しました。たとえば内閣府、外務省、財務省、経産省、農水省、国交省といった省庁。それからメガバンク3行や生命保険等の金融機関などです。
 一方、残念なのは、メディアの関心が今ひとつだったことでした。世界80ヶ国ほどから、約800人もが集まりましたが、メディアはこの大会直後の伊勢・志摩サミットに目が行って、こちらの取材は消極的でした。世界銀行やアジア開発銀行、欧州投資銀行など、多くの国際機関も支援している権威ある会議ですが、インパクトアセスメントに対する日本国内の意識の低さが現われています。ただ、今後はいくつかインタビューを受ける予定があります。
 会議のマネジメントについて日本はしっかりできていたと思います。会議場の各フロアに大学生のボランティアを配置し、機器の操作等の問題が生じた場合にすばやく対応してもらいましたので、大会本部に問合せやクレームが来ることはありませんでした。会議運営を通じて、周りに配慮しながら組織的に動く日本人の気質はすばらしいと思いました。お蔭でとても評判が良く、参加者へのアンケートでは、満足は9割を越えました。また、次回のIAIA年次大会にも参加したいとの声も9割以上もあり、開催国として嬉しいことです。