「日本文化人類学会50周年記念国際研究大会(IUAES2014合同開催)」を開催して

日本文化人類学会50周年記念事業 準備委員会

委員長 小泉 潤二 様

国際会議主催者の生の声をお伝えする本コーナーの第22回目は、2014年5月15日(木)~18日(日)に千葉市(会場: 幕張メッセ)で開催された「日本文化人類学会50周年記念国際研究大会(IUAES2014合同開催)」にて委員長を務められた小泉 潤二 様よりコメントをいただきました。

立候補について

日本として立候補するに至った経緯をご教示下さい。誘致から開催決定までのプロセスについても教えてください。

日本文化人類学会(JASCA)は2014年に50周年を迎えますので、2012年に会長に選ばれた私が50周年の記念事業を担当することになりました。どのような事業が有意義かを検討する中で、記念国際研究大会を開催することがすぐ決まりました。私が、IUAES(国際人類学民族科学連合)の事務局長を務めており、またWCAA(人類学会世界協議会)の元会長だったことから、IUAESの会議をWCAAとの協力で日本文化人類学会が組織することになりました。IUAESの会議は、中国(2009)、トルコ(2010)、オーストラリア(2011)、インド(2012)、イギリス(2013)で開かれてきていましたので、2014年の日本開催案はごく自然に成立しました。(ちなみに2015年はタイ、2016年はクロアチアに決定しています。)時間的には遅かったのですが、事前の打診に基づいて詳細な提案書を2012年末にIUAES役員会に提出し、この提案について審議と質疑応答が行われ、全員の賛成によりIUAES 2014 with JASCAの開催が決定したのが2013年2月です。この決定を2013年8月のマンチェスター大会のIUAES総会でも発表するとともに、会議の内容についてのプレゼンテーションを行い、情報の周知を図りました。

立候補する上で工夫された点をご教示下さい。

今回の日本文化人類学会50周年記念国際研究大会を、IUAESの2014年の中間会議との合同開催とすると同時に、日本文化人類学会の年次の研究大会も同時開催としました。このように国内の会議と国際会議を同じ会場で組み合わせることは、国内外の交流や会議の活発化という観点から望ましいと思います。ただ、複数の会議間の相互調整にさまざまな工夫が必要になります。

IUAESへの立候補書類提出の際の注意事項やガイドラインは、IUAES事務局長としての私自身が作成したものでしたので、それに則って日本からの提案書を作ることは容易でした。他の提案書を見ると、ガイドラインに沿っていないものや要求されている内容が欠けていることがよくありますが、これについての質問に答えられない提案は採択されないことになります。このことはIUAES以外の国際会議についても共通することで、その会議を開催する趣旨や目的や要件が何であるかを十分に踏まえて、それに明確かつ具体的に対応することが必要だと思います。

「立候補で成功するための秘訣」は何でしょうか。

国際会議誘致のためには資金が必要です。国際会議誘致には各国間で相当激しい競争があり、たとえばパネルを組織する研究者には旅費全額と滞在費を保証する、という提案で会議を誘致しようとするケースさえみられます。このように資金面を強調して立候補して誘致すれば、成功しやすくなり、会議参加者が増加することになるのは当然です。

ただ、そうしたことは国際会議成功のための条件の一つに過ぎませんので、それ自体が目的化して資金や観光が最前面に出ることは望ましくないと思います。実際、そのような会議提案も多いのですが、採択すべきではないと私は考えています。参加者を経済的に支援すること、また安心して心地よく会議での議論に集中し、同時に日本についての理解を深めていただくことは、どのような国際会議でも不可欠の要件です。しかし国際会議の目的は研究や学問の発展と交流の推進、ネットワークの構築であり、そのために最も重要となるのは会議の全体テーマの定め方です。一定規模以上の国際会議の場合、テーマをあまりに狭く絞れば参加したくてもできない人が増え、一方あまりに一般的で抽象的に設定すると、誰でも参加できる一方で内容が空疎となり、量的・規模的には拡大するにしても学問や研究上の大きな成果は得られないということになります。IUAES 2014 with JASCAの場合は、テーマをThe Future with/of Anthropologies(「人類学のこれから」と「人類学がもたらし得るもの」)に決めましたが、このテーマに至るまでには国内外の研究者との相当の議論が必要でした。

国や自治体やコンベンションビューローには、こうした目的をもつ主催者が必要とする手段を十分に充実して提供していただきたいと思います。

会議開催について

会議を実際に開催するにあたって工夫した点をご教示下さい。

正式の立候補の打診や手続きを始めることと並行して、日本文化人類学会としての準備を進めました。50周年記念事業検討委員会(後に準備委員会)をすぐに立ち上げ、その中に小委員会を設けて分担して準備にあたりました。結局重要だったのは、「募金、財務、会場、プログラム、ソーシャルプログラム、広報、出版」をそれぞれ担当する委員会です。

国際的な協力を得るために、IUAESとWCAAの役員会や、アメリカ人類学会で開かれる世界各国の人類学会会長会議等に出席して広く協力を要請し、多くの学会の会長に個人的にも協力をお願いしました。これにより、多数の学会に、それぞれの学会が組織者となるパネルを組んでいただくことができました。

政府観光局の交付金交付制度により、多くの寄付金を集めることができました。しかし本学会のようにアカデミックな研究が中心となる学会の場合、産業界からの寄附は限られたものになります。とくに株主に対する説明責任が重要となっている現在、企業が直接的利益に結びつかない支援のために投資することは困難になっているように思います。寄附金のほか、可能である限りすべての補助金・助成金を申請しましたが、それ以外の主な収入源は大会への参加登録費だけです。しかし参加登録費収入は不確定で、蓋をあけるまで結果がわかりません。結局、ぎりぎりまで経費の節減を行わなければなりませんでした。

会議開催後の感想

会議開催において心に残ったことがありましたら、ご教授ください。

今回の50周年記念の大会を通じて、日本のこの分野の研究発信を強化すること、国際的な連携関係を日本と世界の研究者の間に発展させることばかりでなく、全世界の研究者間の連携を強化し拡大すること、また現在この分野を代表するIUAESとWCAAという二つの国際組織の相互関係を強めて望ましいあり方に近付けていくことが目的でした。このような意味での国際貢献という目標は十分に達成されたと思います。感謝と賞賛の言葉を全世界からいただきました。日本文化人類学会の委員や会員、また国内外の関連諸学会のご協力の賜物であり深く感謝したいと思います。

最も意外だったのは参加者の多さでした。当初は海外から250人を集めることを目標にしていましたが、パネル応募が184件、ペーパーの応募が1,226件となり、予想を大きく上回りました。厳選した上で採択したものの、会場が不足し、そのため会場費・機材費などが当初予定の2倍以上に増大し、予算を圧迫することになりました。また参加者の渡航費・滞在費の一部支援を準備して公募したところ、20件の支援予定に対し200件を超える応募があったため、大量の書類を審査して結果を通知し、その後もまだ交渉が続いて、たいへんな労力と困難をともなうことになりました。来日して会議に参加する強い意志があり、当然支援対象とすべき数多くの研究者を十分に支援できなかったことは心残りです。結局参加者総数は、60ヶ国近くからの500人ほどの方々を含めて1,400人を超えました。たいへん盛会となったバンケットが終わった後、夜遅くになっても会場を去らず語り続ける方々を見て、ここで新しい人と人の関係や新規のプロジェクトの芽や斬新な発想が生まれているとすれば、何物にも代えがたいと感じました。

しかし国際会議の場合、国内の研究大会などと異なり、最終的な参加者数を事前に読むことがほとんど不可能です。参加登録を済ませた人でも、渡航のための助成申請が不採択となった、ビザの取得が遅れた、本人や家族の健康問題で来日不可能になった、などさまざまな事情で直前のキャンセルとなることが多くあります。これは既に会場や機材や人員を確保して多額の支払いを負担している主催者にとっては、きわめて大きなリスクとなります。主催者が安心して国際会議を企画し開催できるよう、充実した経済支援の制度が必要です。