誘致・開催レポート

リアル開催のケーススタディー (アンバサダーの集い)

安心・安全の実証実験の場として
「アンバサダーの集い」を開催

JNTOでは、学術界において特に世界的に影響力のあるグローバルリーダーの方々に「MICEアンバサダー」にご就任いただき、「日本の顔」として、国内外にMICE開催国としての日本の広報活動や国際会議の誘致活動を行っていただいております。現在69名の方が活動されておりますが、毎年開催している「アンバサダーの集い」が、アンバサダーの皆様の交流の場となっています。

2020年9月にホテルオークラ東京で開催された同イベントでは、アンバサダーの皆様に関心が高い、コロナ禍におけるface to faceイベントの在り方を体験できるショーケースとして「アンバサダーの集い」を実施しました。MICE開催ガイドラインのもと新型コロナウィルス感染防止対策を行い、32名の方にお集まりいただきました。

リアル開催のケーススタディー (アンバサダーの集い)

会議概要

会議正式名称 アンバサダーの集い
開催期間 2020年9月
開催都市/会場 東京 / ホテルオークラ東京
参加者数 32名

徹底して行われた、新型コロナウイルス感染症対策

今回、何より注力したのが、感染症防止対策です。イベントを安全に開催するために、JCCB(日本コングレス・コンベンション・ビューロー)およびJCMA(日本コンベンション協会)が作成したMICE開催ガイドラインを活用して、会場と協力しながら徹底した感染予防対策を行いました。

スタッフ全員の体温・体調管理はもちろんのこと、入場時の消毒、非接触型の検温及びマスクの着用を徹底。受付では飛沫防止アクリル板や、ソーシャルディスタンスを保つための足元案内表示を設置し、予備のマスクもご用意しました。

加えて、法定換気回数を宴会場で実施可能な最大値にして空気を入れ替え、演台に飛沫防止アクリル板を設置。講演者ごとにマイクを消毒しマイクカバーの交換も行いました。座席も、ソーシャルディスタンスを意識し、席数を通常の半分に減らすなど安全に配慮。これからの時代の国際会議を意識した対応を行いました。

参加された山口 正洋アンバサダーからは今回の取り組みに対して、「国際会議の実施形態を今後どう提案し実行に移していくのか、有力なヒントが得られるのではないかと思い参加させていただきました。参加者として安心して出席できるか、主催者として安心して皆さんをお呼びできるか。また、日本のカルチャーを全く知らない海外の方々、特に日本の自粛カルチャーのない海外の人に日本流の感染症対策を理解し実行していただけるのか。こういった視点から、かねてより十分な感染症対策の下で開催される会議に参加して、その経験を判断の参考にしたいと考えていました。しかしその機会は稀でしたので、このようなショーケースの形で会議を疑似体験させていただけるというのは非常に貴重だと思います。」とのお声をいただきました。

会場の大きな注目を集めた、オンライン会議の成功体験講演会

「アンバサダーの集い」中盤では、お二人の方にご自身の取り組みやご経験を講演していただきました。会議の誘致や開催成功の実体験のお話は、アンバサダーの皆様に大変好評でした。

①オンライン誘致プレゼンについて
「国際昆虫学会議招致への道のり」

京都大学大学院理学研究科生物科学専攻動物行動学分科教授
沼田 英治アンバサダー

沼田アンバサダーには2024年に日本での開催が決まった国際昆虫学会議の具体的な誘致活動についてご講演いただき、①日本独自の学術的研究の魅力を伝える ②会議におけるジェンダーバランスの解消 ③日本全体で誘致していると思えるようなイメージ作りの重要性についてお話いただきました。

若手研究者や女性研究者を主体とした誘致・運営体制の構築、ネイティブスピーカーによる英語プレゼンテーションのコンサル等JNTO支援の活用、多くの昆虫関連の学会をまとめて「日本昆虫科学連合」を組織の上、誘致活動を行った点などは、他の国際会議誘致の際にも参考になるとの声が多く聞かれました。
参加アンバサダーからも「国際会議においてジェンダーやエイジバランスを考慮することは昨今重要。若手研究者や女性研究者を国際会議の運営主体に任命し、彼らを活用した誘致プレゼンテーションを行ったエピソードは大変参考になり、今後の活動に取り入れていきたい。」、「オールジャパンとしての誘致活動の重要性を改めて感じた。」との声があがりました。

②国際・国内会議のオンライン開催ケーススタディー
「第93 回日本整形外科学会オンライン学術総会
開催経緯・工夫・メリット デメリット 」

第93 回日本整形外科学会学術総会会長
東京慈恵会医科大学附属病院 教授
丸毛 啓史様


MICEアンバサダーの先生方への事前アンケートでは、新型コロナウィルスの影響下でface-to-faceでの会議の重要性や意義を改めて感じる一方で、当面はハイブリッド開催を含めた会議のオンライン化の検討が進むだろうという声が多く聞かれました。このため、コロナ禍の中、国内でいち早く会議のオンライン化に取り組んだ「日本整形外科学会オンライン学術総会」のケースを、同学術総会大会長を務められた丸毛 啓史様にご紹介いただき、オンライン開催において企業協賛や参加者を増やす工夫等お話しいただきました。

企業に対しては、WEBサイト上で協賛企業のバナーを貼る等の露出確保、参加者の属性情報の提供、企業展示ブースへの参加者動線の誘導など、オンライン会議に協賛する企業へのメリットを設計し、丁寧に説明することで協賛につなげた話をご紹介いただきました。またYouTubeを活用した動画の視聴やオンライン懇親会、オンライン上での大学対抗e-Sports大会の開催など、参加者数を増やし、会議への参画を促進する工夫についてもご紹介いただきました。

参加されたアンバサダーからは、「今までは、従来型の会議運営しか考えていなかったが、今回の講演を聞くことで、Afterコロナの学会運営においても、このコロナ禍で得たノウハウを生かしていくことを考えていかなくてはいけないと感じた。その意味で非常に参考になる講演だった。」という声があがりました。

また、「丸毛先生のお話の中で、オンサイトでの会議実施かオンラインにするかは、開催の2カ月前までに決める必要があったという話があった。開催の1、2年前から会場やホテルの予約キャンセル料が発生するところも多い欧米と比較して、日本では、特に公的な会議施設を中心に、開催が近くなるまで状況を見極めて参加者にとって最適なソリューションを提供できるということだと思う。こうした点は、日本で開催する大きなメリットになってくるのではないかと気づかされた。」との声もいただきました。

展示ブースから飲食ブースに至るまで、安全を守るための取り組みを実施

展示ブースでは、今後の国際会議等のイベントに活用できる最新機材やサービスが展示されました。
紫外線ランプで細菌を除去しウイルスを抑制する「空気循環式紫外線清浄機エアーリア?」岩崎電気株式会社)」や、顔認証による個人特定と発熱者の検知が同時にできる「顔認証型AIサーマルカメラ(アイリスオーヤマ株式会社)」、マスクをつけている人の声を大きくしたり、スピーチを翻訳したりできる「C面スマートマスク(ドーナツロボティクス)」、密集防止センサーやAIセルフチェックカウンター等感染症対策の最新機器・グッズ類(株式会社トーガシ)など感染対策の技術を紹介する展示に、参加アンバサダーから熱心な質問がありました。

また、会場の混雑状況を見える化し、3密状態の発生を防ぐ「会場内AI人数計測システム(アトムテック株式会社)」や、VR上でコミュニケーションができる「ミーティングシステム(株式会社Synamon)」、コロナ禍の状況に特化した国内旅行保険「新型コロナ感染症一時金特約」(東京海上日動火災保険株式会社)など、時流のニーズを捉えたサービスを紹介した展示も盛況でした。

もちろん展示ブースでも感染症対策に細心の注意を払い、着用自由のフェイスシールド・マウスシールドを配布しました。
飲食ブースでは蓋付きのフィンガーフードやドリンクの提供、サービススタッフによるビュッフェ料理の取り分けやトング類の交換などを行い接触機会を減らしました。飲食ブースにはテーブル上に飛沫防止アクリル板を設置し、参加者全員が安心できる会場を目指しました。

参加者インタビュー

参加されたMICEアンバサダーの皆様に、これからのface-to-faceイベントの在り方や、参加された感想を伺いました。

羽場 久美子アンバサダー

青山学院大学大学院国際政治経済学研究科教授
京都大学客員教授
グローバル国際関係研究所 所長
ISA(世界国際関係学会)AP(アジア太平洋)副会長


この度MICEアンバサダーに就任させていただき、初めて「アンバサダーの集い」に参加しました。人文社会科学では最初のアンバサダー、女性では4人目ということで、責任に身が引き締まる思いであるとともに、今後も人文社会科学の方々、女性の方々が次々にアンバサダーになっていただけることを期待しております。集いでは、オンデマンドを使って視聴者を増やす取り組みや、オンライン懇親会のエピソード等が紹介された講演会は、今年の12月に国際会議の開催を予定していることもあり、具体的な事例として大変参考になりました。

オンライン会議にすることにより、遠方の比較的貧しい国々の参加者も移動や宿泊に経費をかけずに参加できるので、ネットワークを広げる意味では非常に有効だと考えています。特に、コロナ禍の下でも、ヨーロッパ、アメリカ、アジアなど世界10カ国の方々と共に、この冬、国際会議を共に開くことができるのはオンライン会議のおかげと、本日の情報や交流には大変感謝しております。一方で、国際会議がすべてオンラインでの開催に代替できるものではなく、本日のように、face-to-faceで開催する意義は非常に大きいと考えています。会議後のコミュニケーションが積極的に取れますし、懇親会もオンライン懇親会と現実の懇親会では、一人一人とじっくり話せ情報交換できるという点で、その後につながる有効なネットワークの醸成という点ではかなり異なります。

コロナ禍により当面オンラインでの開催をせざるを得ない会議も多いと思いますが、日本は安心・安全・清潔・おもてなしといった強みがあるので、日本での国際会議開催を心待ちにされている世界の研究者はたくさんいらっしゃると思います。本日の「アンバサダーの集い」を通じて、国際会議の誘致や開催の具体的なケーススタディやノウハウを知ることができ大変勉強になりましたし、お知り合いになれたMICEアンバサダーの先生方とも今後いろいろ情報交換をさせていただきながら、次の会議に向けての準備を進めていきたいと思っています。このような企画をして交流をアレンジしてくださいましたJNTOの方々に心より感謝申し上げます。


山口 正洋アンバサダー

東北大学大学院工学研究科
電気エネルギーシステム専攻 教授


コロナ禍において、会議のオンライン化または対面会議とオンライン開催とのハイブリッド化の推進というのは、今のような時期こそ正面から取り組む必要があると思っています。
一方で、現時点では2021年にハイブリッドで開催することを明確に宣言している会議はまだあまり無いように思えます。

ハイブリッド型というのは開催の方法自体が複雑で、オンラインとリアルの会場での運営を同時にシンクロさせて行うことが必要です。そして、それぞれの参加者数が世界の感染状況によって直前でも変わり得るという不確実さを含んでいるので、なかなか予想が立てにくい難しさがあります。とはいえ、参加する側にとってはできれば会場、やむを得ない場合にはオンラインという選択肢の順序は恐らく変わらないと思います。従って、いかにそれを上手に構築して経費をうまく抑えられるか、これが現時点で開催側に課せられた大きなチャレンジではないかと思います。今後、ハイブリッド型の基本となるような良いビジネスモデルができ、そうした情報が国際会議主催者にも共有されると良いと考えています。


沼田 英治アンバサダー

京都大学大学院理学研究科生物科学専攻 動物行動学分科 教授


新型コロナウィルスが始まって以来初の国際昆虫学会議が、2021年にフィンランドで開催される予定です。来年、果たして普通に対面でできるのかどうかはまだわかりませんが、いろいろなノウハウがこの1、2年の間に蓄積していくと思うので、2024年の京都大会時には、そういったノウハウを運営に活かしていける可能性があると思います。

大学の講義でも、先生と学生が直接触れ合う講義とオンラインで講義を聞くのとでは、本人の記憶に残るものが違うと思います。私もかつて講演などで直接聞いたことはすごく印象に残っています。もちろん、オンライン会議のプラスの面もありますが、対面会議ならではの良さをオンラインではうまく再現できないところがあるので、そのあたりを考えながら、いかに安全・安心に開催するかを検討していくことが、私達のこれから何年間かの任務だと考えています。

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