ケーススタディ

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効果的なハイブリッド型国際会議の運営とは
~第17回世界地震工学会議(17WCEE)のケーススタディ~

  • コンベンション施設
    仙台国際センター
  • 都市
    仙台
    地域
    東北

【会議名】第17回世界地震工学会議(17WCEE)
【開催日】リアル開催:2021年9月27日~10月2日
オンライン開催:2021年9月20日~12月24日
【会場】仙台国際センター
【参加人数】3,123人(リアル参加271人含む)
【併催イベント】第10回「震災対策技術展」 in 仙台(BOSAI EXPO)

1956年から4年に1度、世界各地で開催される地震工学分野最大規模の国際会議「世界地震工学会議(WCEE)」。わが国では1960年の第2回(東京・京都)、1988年の第8回(東京・京都)に次いで3回目の開催となった「第17回世界地震工学会議(17WCEE)」が、2021年9月26日、仙台市での市民公開講座をオープニングイベントに幕を開けました。

新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大の中で、会議開催を指揮した17WCEE組織委員会委員長 目黒公郎東京大学教授に、ハイブリッド形式での開催のご苦労や、その中から見えてきた効果的な会議の運営手法など、貴重な体験をお伺いしました。

<目次>
■開催延期の判断と対応
■海外参加者への対応
■参加者に寄り添う安心・安全な運営
■ディスカッションを活性化する創意工夫
■開催都市の柔軟なサポート
■責任者は、決してブレてはいけない

開催延期の判断と対応

2020年9月に開催が予定されていた同会議ですが、日本地震工学会では、2020年4月22日に延期を、6月22日に新たな会期を発表しました。この間、どのような議論があったのでしょうか。
17WCEEの開催延期は、東京オリンピック・パラリンピックに足並みをそろえた形です。世界80ヵ国から3,000人超の参加を見込む17WCEEでは、会場の再確保にも困難が予想されることもあり、当初は「おおよそ1年の延期」という判断をしました。開催地の仙台市は、災害リスク低減のための仙台防災枠組が採択された「第3回国連防災世界会議(2015年)」の開催地であり、また2011年に発生した東日本大震災の経験や教訓、防災や環境への配慮を行政施策に取り入れている「防災環境都市」であることから、当初の計画通り仙台市から変更することは全く考えませんでした。

感染状況の先行きが不透明で、先行事例も限られていましたが、開催手法等についての情報収集に努めながら、国際本部とも議論を重ねました。また、次の18WCEEの開催地は当初のタイミング(2020年)で決定され、それに向けた準備期間を確保する必要もあったため、延期は1年までと考えていました。
一方で、会議は最新の研究成果を発表する場であることから、当初の予定に沿って提出された論文の成果は、予定通りに2020年版の会議Proceedingsとして出版し、研究者の実績として、また社会がその成果を利活用できるようにしました。また、会議開催の1年間の延期によって、新たに進展した研究成果や、当初のスケジュールでは本論文の投稿が間に合わなかった論文に関しては、再度論文の募集を行い、発表できる機会の提供に努めました。 延期についてはパンデミックが原因であることから概ね理解は得られましたが、参加登録費を支払った参加者にはできる限り誠実な対応を心掛けました。

海外参加者への対応

海外の参加者に対しては、どのように対応されましたか。
海外参加者への入国手配はタイミングをはかって再開させたいと考えていましたが、参加者の自国での新型コロナ感染症の拡大や渡航に係る隔離期間の問題から、結果として訪日を断念される方が増えていきました。またMeet the Masters、Keynote Lectures、Invited Lectureといった多様なプログラムに多くの海外スピーカーを招請する予定でしたが、これに関しても新型コロナ感染症問題の不安定な状況を踏まえて、比較的早い段階でオンラインでの実施を決定しました。

参加者に寄り添う安心・安全な運営

延期後、2021年の開催を前に、日本国内では感染者数が増加し、緊急事態宣言が再発令される状況となりました。
会場では感染拡大防止ガイドラインを遵守し、安心・安全な運営を実現するため、参加者には事前にQRコードを発行し、このコードを活用して各会場での入退場管理とそのトレーサビリティを確保しました。また、会場の出入り口には、体温チェックと感染防止の消毒散布装置を設置し活用しました。また運営スタッフにはアルバイトを含めて全員に、会期中は毎日、会場に来る前の体温チェックと抗原検査による確認を徹底するなど、管理体制にも万全を期しました。

ガラディナーやテクニカルビジット、ソーシャルプログラムについては、会議の参加者はもちろん同伴者にとっても大事なイベントであることから、キャンセルポリシーを緩和するなどの対応を行い、実施の可能性については期限ギリギリまで議論しました。しかし、海外からの参加者をはじめ現地参加者が当初の予定から大きく減ったことで、企画していたこれらのイベントを断念せざる得なくなったことは、準備を進めてくださっていた関係者と参加を楽しみにしておられた皆様に対して、大変申し訳なく思うとともに、非常に残念でした。

ディスカッションを活性化する創意工夫

ハイブリッド開催で苦労したこと、工夫したことをお聞かせください。
ハイブリッド開催を決定するに当たっては、従来の対面会議に近い形での開催を目指すのではなく、ハイブリッド開催としたことで可能になる新しい価値の創造にこだわりました。
一方で、当初、ハイブリッド開催とすることで節約できるかもしれないと考えた会場費については、むしろ逆の面もありました。まず新型コロナ感染症問題下では、会場の定員が大幅に制限されたことで、現地参加者が当初の予定の半数程度の場合には、会場の定員数が不足する可能性が生じたこと(結果的には現地参加が少なくなったので、当初予定の会場で開催ができましたが)、対面会議では不要であった信頼性の高い大容量の通信ネットワークシステムの整備が必要になったこと、多数のオンラインセッションの管理を可能とするハイブリッド会議システムの導入コストなどは、新たに発生した課題でした。また、これらの予算の見直しに加え、開催期間の変更に伴う契約延長等による予算の見直しや、会場の定員削減による発表のためのスペース(会場)の組み直しなどにも苦慮しました。
またハイブリッド開催では、どうしても時差の問題から欧州や米州からの参加者に負担を強いるため、セッションの終了時間に関しては通常より遅めの21時に設定しました。

その他の点で工夫したこととしては、プレゼンテーションの収録ビデオと発表用の資料の事前提出を発表者に依頼し、これを実施したことです。そして、対面会議の1週間前から1ヵ月後までExtended Conference Period(その後12月24日まで延長された)を設け、プレゼンテーションのビデオ動画や発表資料を事前に公開しました。これらの対応は様々なプラスの効果を生みました。具体的には、動的破壊実験やコンピュータシミュレーションなどでは、その結果を動画やアニメーションで示すことができるので、従来の静的なスナップショットの写真や図に比べて、はるかにわかり易いものになりました。司会者を含め、参加者は発表内容を事前に予習することができたため、当日のセッション運営がスムーズになるとともに、オンライン掲示板やセッション当日の質疑応答の活発化につながりました。また、発表者の希望や当日欠席した発表者については、事前に提出されたビデオ動画を活用することでセッションの時間管理が容易になりました。さらに、従来の対面開催では同時刻に開催される分科会に参加することは不可能でしたが、オンライン及びオンデマンドでセッションに参加できる形式にしたことで、全ての分科会の視聴や質疑応答が可能になりました。

発表者から了承を得たプレゼンテーション資料に関しては、各セッションでの発表や質疑応答を撮影したビデオと共に会議の成果としてデータベース化しました。このデータベースの利活用法の詳細については、今後、議論をする予定ですが、従来の会議では、将来的に記録として残るものは会議Proceedingsに記載された論文(pdfファイル)のみだったわけですが、今回の措置によって、はるかにリッチな情報の蓄積が可能になったので、当該分野の将来的な発展に対して大きく貢献すると期待されます。

こうした一連の新たな取組みは、新型コロナウイルス感染症の問題がなければ実現しなかったものであり、この状況を逆手に捉えて生まれた大きな成果であったと思います。 オンライン開催によって、旅費や滞在費が不要になったので参加に係る費用が抑えられ、学生をはじめとする若手研究者の参加拡大にもつながりました。一方で、海外の著名な教授や研究者とのリアルな対面が研究へのモチベーションにつながった自分自身の体験を振り返ると、そのような機会を若手研究者に与えられなかったことについては、非常に残念に思っています。

それ以外の点に関して言えば、17WCEEは日本の若手研究者が国際会議でのチェアパーソンシップを学ぶ機会にしたいと考えていました。そこで、国際会議におけるチェアパーソンの役割や実施すべきことなどをまとめたガイドラインを作成し、次代を担う日本の若手研究者たちに事前の講義を行いました。
ところで、日本で前回に開催された33年前の8WCEEの時点では、委員長の私も副委員長の中埜先生も博士課程の大学院生であり、これが初めての国際会議への参加でした。その前の2WCEEから8WCEEまでの間隔は28年です。ナレッジの継承において、30年間と言うのは限界に近い時間長だと感じます。WCEEへの日本の参加者数や論文発表数に基づけば、もう少し短い間隔で日本が開催してもいいと考えます。

開催都市の柔軟なサポート

仙台市やコンベンションビューローによるサポートをお聞かせください。
2021年への会議延期に伴い、2020年開催のために確保していた仙台国際センターの予約をキャンセルしましたが、新型コロナウイルス感染症に起因するキャンセル料は全額免除していただきました。また、新型コロナウイルスの影響により海外からの参加が見込めなくなったため、本来であれば仙台市からの補助金を受ける条件から外れてしまいましたが、仙台市での17WCEEの開催が世界に防災環境都市としてアピールができる絶好の機会であることをはじめ、仙台市にもたらされる有形無形の効果を考慮し、予定どおりの補助金をいただけることになりました。仙台市のご理解と多大なご支援には、心から感謝しております。

また、コロナ禍により実現できませんでしたが、仙台観光国際協会は商店街を会場とするユニークなレセプションや国分町の街歩き、会場でのマイ箸づくりなどの体験プログラム、さらにボランティア派遣、公共交通機関等へのポスター掲出など、多様なご提案をいただき、心強いパートナーでした。WCEEの招致段階においても、開催都市が決定されるチリ大会にて、仙台市と日本地震工学会、JNTOによるジャパン・ナイトを在チリ日本大使公邸にて開催し、日本への誘致を働きかけるなど、多大なご協力をいただきました。

私たちは「未曽有の被災から復興を遂げ、さらに発展する都市を参加者に見ていただく」というコンセプトで仙台市を開催地として選びました。このように、国際会議の開催都市には、第一に会議の開催目的に合致した都市であることが求められます。加えて同伴者プログラムなどには、文化・観光的要素がポイントになることから、これらを魅力的なコンテンツとして磨きあげ、参加者の高い満足度につながる提案をいただける地域との連携が、学会加盟国の代表に支持されると考えます。

責任者は、決してブレてはいけない

次回の開催方法へのお考え、また今後、他の会議に取り組む主催者の方々へのメッセージをお願いします。
海外の研究者からは、「新型コロナウイルスの影響下にも関わらず、無事会議が実施できたのはホスト国が日本であったからだ」という声をいただいています。組織委員会を中心とした関係者全員の努力が評価され、嬉しく思います。一方で、海外からの参加者の訪日が叶わず、本来であれば見聞してもらうことができた、以下のようなことが実現できなかったことは、非常に残念でした。具体的には、東日本大震災や熊本地震からの復興過程にある被災地、阪神・淡路大震災や新潟県中越地震からほぼ復興した被災地、首都直下地震や南海トラフの巨大地震など、今後地震被害を受ける可能性の高い地域での地震対策などの視察、また、わが国のユニークな文化を直に体験いただくこと、さらに多数の国々の参加者が一堂に会して、共通の体験を通じた交流を持つことなどです。

次回の18WCEEは、状況が改善していれば、ぜひとも対面での会議を希望します。しかし、対面開催となっても、今回、17WCEEにおいて初めて取り組んだプレゼンテーションマテリアルの事前提出やそのデータベース化などは、学術研究の発展と地震対策の推進に大きく貢献する取り組みであるため、ぜひ継続して実施して欲しいと考えています。

国際会議の開催には、PCOをはじめ多岐にわたる関係者が関わります。だからこそ、責任者は一貫した方向性を示すことが重要であると感じています。責任者の発言や姿勢に一貫性がないと、そのリーダーシップの下で動く関係者はやり難くて仕方がないだけでなく、効率的に準備を進めることはできません。今後、会議をお考えの皆さんには、「責任者は、決してブレてはいけない」ということをメッセージとしてお伝えしたいと思います。

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“杜の都 仙台”のコンベンション・学術文化振興の拠点「仙台国際センター」。会議棟と展示棟、両棟を一体で利用すると約6,000名規模の催事が開催可能です。青葉山や広瀬川などの自然環境に恵まれ、仙台市博物館・宮城県美術館・東北大学などの学術文化施設が立ち並ぶこの地で、新しいコンベンションスタイルが実現いたします。