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2024年06月24日 MICE 市場トピックス(5-6 月)

海外の複数市場について、JNTO海外事務所が収集したMICE関連の状況やトピックスをご紹介します。

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【ベトナム市場】

 コロナ禍以降、ベトナムでは政府機関や民間企業によるインセンティブ旅行が隆盛している。観光再開直後は、日本を選択する団体・企業が多くあったが、最近では世界情勢の不安定さからくる不況や航空券高騰の影響もあり、国内や中国、タイ、シンガポールなどの「安・近・短」が叶う近隣諸国へのニーズが高まっている。一般観光と同様に、東京・大阪・名古屋の3大都市圏を中心としたゴールデンルートが人気だが、「東京+北海道」などの大都市と地方を組み合わせた旅程も増えている。規模感は30名以下の小規模グループが主流である。一方、不況の影響をあまり受けていない金融、保険、IT、サービス業など比較的好調な業界では訪日インセンティブ旅行が特に活発で、100名~300名規模の大型団体も多い。今年の春には、日本の美しい桜を目当てに大小多くのインセンティブ旅行が催行され、フライ&クルーズ形式でクルーズ船「ダイヤモンドプリンセス号」の日本一周クルーズに約700名が乗船した企業(小売り業)もあった。

 この背景には、ベトナム人特有の商慣習と人材獲得競争の激化が深く関係している。日本ではインセンティブ旅行の有無が企業選びの重要な要素とはあまり見なされないが、ベトナムでは毎年インセンティブ旅行の実施が必須であり、渡航先や内容が魅力的かどうかが企業選択の最重要要素の一つとなっている。これは、「ヒトに自慢したい」というベトナム人特有の考え方にも結びついており、「私(子供・孫)は大企業で働いている」というステータスを誇示する役目も担っている。企業によっては、社員の家族・親戚までインセンティブ旅行に招待するケースもあり、超大型団体が多いのもこのためである。また、ここ数年は転職市場も活況であり、企業は優秀な人材を確保するために、自社で働くメリットや誇りを感じてもらうことに頭を悩ませている。そのような中で、未訪日層が約8割を占めるベトナムでは、日本は「憧れの旅行先」というイメージが未だに強く、近隣諸国や韓国、台湾と比較しても日本へのインセンティブ旅行費用は倍以上かかることから、訪日インセンティブ旅行は企業の経営状況や資金力などを示すステータスにもなる。そのため、多くの団体・企業が日本へのインセンティブ旅行を選択している。

 では、どのようにしてベトナムからのインセンティブ旅行を誘致できるかについてであるが、ポイントは主に3つある。1つ目は「助成金や支援制度の充実」である。多くの企業は旅行会社に企画提案を依頼し、受注会社を決定するが、旅行会社は費用を抑えつつ充実したサービスを提案したいと常に考えている。その際、宿泊費用助成、ガラパーティー時のパフォーマンス演出、ノベルティ提供、施設・空港等での出迎えサービスなどがある地域が選ばれやすい傾向にある。特に出迎えサービスなどは特別感があり、日本のおもてなし文化が感じられるため人気が高く、リピーターに繋がる案件も少しずつ増えている。2つ目は「柔軟性」である。「ベトナム人とのビジネスは予定通りに進まない」とよく言われるが、そこを乗り越えると大きなチャンスに繋がる。例えば、ガラディナー会場の利用時間やブッフェ・ドリンク提供時間の延長リクエストが多くあるが、事前にこれを想定した運営体制を整えておき、いざという時に柔軟に対応できることを提案できれば強みになる。3つ目は「特別感の演出」である。多くの訪日インセンティブ団体は、日本らしい文化体験や企業訪問、工場視察を希望する。ベトナムでは日本製品や日本企業の技術やサービスに絶対的な信頼があり、日本での日系企業訪問は企業のステータスにも直結する。通常の企業訪問や工場視察に付加価値をつけるために、「通常は案内していない場所の紹介」や「社長面会や社長直々による社内案内」などの特別プランを地元企業と連携して用意することは、ベトナムからのインセンティブ旅行誘致に有効である。

 ベトナムは、不景気と言われる状況下でも、2023年のGDP成長率は5.05%と東南アジアで高く、2024年には5.9%に上昇するとOECD(経済協力開発機構)は予測している。この成長著しいベトナムのインセンティブ旅行市場に、より多くの自治体や観光関係者の皆様にご関心を持っていただけることを期待したい。

4 月に催行されたクルーズ船を利用した 大型訪日インセンティブツアー
4 月に催行されたクルーズ船を利用した 大型訪日インセンティブツアー
ベトナム国内インセンティブ旅行で行われたガラディナーにおけるファッションショーの様子
ベトナム国内インセンティブ旅行で行われたガラディナーにおけるファッションショーの様子

【マレーシア市場】

マレーシア市場における企業等によるインセンティブ旅行はとても盛んに行われており、訪問先として日本が多く選ばれている。クアラルンプール事務所では、2023年度に事務所に寄せられたインセンティブ旅行の開催支援の相談件数や、マレーシア国内の旅行会社を対象に行ったアンケート調査の結果をもとに、マレーシア市場のインセンティブ旅行傾向レポートを作成、公開した。
https://www.japan.travel/en/my/travel-trade/news/

<レポートの概要>
・2023年度に事務所に寄せられたインセンティブ旅行開催支援の件数はコロナ禍前の2019年の35%減だが、参加人数は2019年を上回り順調に回復していると言える。
・開催時期は冬から春までが繁忙期で、次いで秋頃が人気。マレーシアにおいては、スクールホリデーや中国旧正月の休暇時期と雪や桜の季節が重なる冬から春にかけて訪日旅行のピークとなり、暑い夏の時期は日本への旅行が避けられる傾向があるが、インセンティブ旅行においても同様の傾向が見てとれる。なお、マレーシアの会計年度が1月から12月のため、年度当初の1月はインセンティブ旅行の開催が避けられる傾向がある。
・マレーシアの旅行会社がインセンティブ旅行商品を造成するにあたって有益となる情報は、支援制度、大型グループ対応が可能なレストランの情報、企業見学および観光スポット情報、ユニークベニューの情報と続く。開催支援の情報や地域内で大型のインセンティブに対応できるレストランやユニークベニューの情報をWEBサイト等を通じて英語で発信することや商談会等の機会を通じて個別にセールスを行うことが有効と言える。また、リクエストの多いWOWファクターとしてうどん打ち体験や伝統舞踊等のパフォーマンス、伝統工芸品等の制作体験、アウトドアアクティビティ―などが選ばれているので、それらの情報も合わせて発信していくことが求められている。

月別団体数・人数<br>*同一主催者の複数グループが含まれている
月別団体数・人数
*同一主催者の複数グループが含まれている
インセンティブ旅行商品造成に有益な情報 <br>出典: JNTOクアラルンプール事務所実施Questionnaire for Malaysia Travel Professionals regarding Japan Travel FY2023 (n=51, 複数回答可)
インセンティブ旅行商品造成に有益な情報
出典: JNTOクアラルンプール事務所実施Questionnaire for Malaysia Travel Professionals regarding Japan Travel FY2023 (n=51, 複数回答可)

【シンガポール市場】

シンガポール事務所では、4月17日(水)~18日(木)にかけて開催されたMICE見本市「The Meetings Show Asia Pacific 2024」に出展した。本見本市は、MICE専門メディアであるNorthstar Meetings Groupが主催し、シンガポール・マリーナベイサンズコンベンションセンターにて開催されたもので、2013年よりロンドンにて開催されている同名イベントのアジア太平洋版として、初めて開催された。

 初開催にもかかわらず総参加者数は1,000名を超え、アジア太平洋地域を中心として、170を超える政府観光局、コンベンションビューロー、ホテル等が出展し、欧米を含めた各地からのセラーとの商談やネットワーキングが実施された。開催地であるシンガポールをはじめ、タイやフィリピンといった東南アジア、オーストラリアやニュージーランドといったオセアニア、マカオや台湾といった東アジア等の各国が、共同出展社とともにナショナルブースを出展しており、また今回MPI、SITE、IAEE、ICCA、PCMA*といったコンベンションやイベントに係る業界をリードする団体も多数出展するなど、本イベントへの業界からの期待が感じられた。また、ステージイベントの一環として、Events Industry Council(会議、コンベンション、展示会業界の国際団体)よる持続可能なイベントプロフェッショナル認定コースの入門セッション、持続可能性やAI、ウェルビーイングといった話題についてのパネルディスカッションも実施され、活発な議論が行われた。

 JNTOが行った有力な商談の多くは東南アジアのインセンティブ案件だったが、北米地域からのインセンティブ旅行や、東南アジアの国際会議の案件もあった。現地での商談傾向としては、東南アジアからのインセンティブ旅行では日本が人気である一方で、特にインドネシアのバイヤーを中心に、航空券の高騰がネックとなるとの意見も多く聞かれた。コロナ禍以前はシンガポールを経由したインドネシアのインセンティブ旅行が好まれていたが、現在は価格が高騰しており、また、シンガポール航空、JALやANA等フルサービスキャリアにおいては、インセンティブ団体向けの席が十分に確保されておらずFIT向けの航空券を使用する場合もあるとのこと。
国際会議については、シンガポールをはじめ東南アジアからのバイヤーが中心ではあったが、中央アジアやアフリカからのバイヤーの参加もあった。
本イベントでは主催者により事前にMICE関連バイヤーのみが選定されており、質のよいバイヤーとの商談を行う事ができた。イベント終了後もこれらの商談相手に対するフォローアップを継続している。本イベントは数年間継続した開催が予定されており、来年は同会場にて規模を拡大しての開催が予定されている。
*MPI = Meeting Professionals International, ミーティングプランナーの国際団体
SITE = Society for Incentive Travel Excellence, インセンティブ旅行業界の国際団体
IAEE = International Association of Exhibitions and Events, 国際展示会・イベント協会
ICCA = International Congress and Convention Association, 国際会議協会
PCMA = Professional Convention Management Association, ビジネスイベントの業界団体

JNTOブース
JNTOブース
会場エントランスの様子
会場エントランスの様子
バイヤーラウンジの様子
バイヤーラウンジの様子

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<JNTO担当部署> MICEプロモーション部
 TEL:03-5369-6015 E-mail:convention@jnto.go.jp