誘致・開催レポート

第34回国際電波科学連合総会(URSI GASS 2023)

中央大学理工学部電気電子情報通信工学科教授、工学博士 小林 一哉 MICEアンバサダー

国際会議主催者の生の声をお伝えするコーナー。今回は2023年8月に札幌で開催される「第34回国際電波科学連合総会」の招致委員長を務められた、中央大学理工学部電気電子情報通信工学科教授、工学博士の小林一哉氏に誘致成功のポイントについてお聞きしました。小林一哉氏は2016年、MICEアンバサダーに任命されています。

会議概要

会議正式名称 第34回国際電波科学連合総会
XXXIVth URSI General Assembly and Scientific Symposium (URSI GASS 2023)
開催期間 2023年8月
開催都市/会場 札幌 /
参加者数 1,000名 (海外からの参加者数:700名)

国際電波科学連合(URSI)総会の開催地に立候補した理由を教えてください。

国際電波科学連合(URSI)総会の開催地に立候補した理由を教えてください。

URSI総会は、電波伝搬・計測、無線通信、電磁環境、エレクトロニクス、フォトニクス、地球、宇宙、天文、生体、及びそれらの応用を含む広範な分野を対象とする国際学術団体である「URSI(Union Radio-Scientifique Internationale)」が、3年に1度開催する国際会議です。日本は過去2回、1963年に東京、1993年に京都で、URSI総会を開催しました。京都での開催から約25年が経過した現在、国内の電波科学関係の研究はひとつのピークに達しており、そう遠くないうちに世代交代の時期を迎えようとしています。URSI総会を日本で開くことで我が国の電波科学研究の将来を担う若者の多くがURSI活動に関わり、日本の恒久的なURSI活動の継続につながると思うからです。

2023年に札幌開催が決まったときのお気持ちはいかがでしたか?

「感動!」の一言でした。日本のURSIコミュニティーにとって非常に大きな目標が達成されましたし、日本学術会議の国際活動にも大きく貢献できる成果でした。それほどURSIの総会というのは重みがあります。私自身、学生時代から「いつかはURSIの活動に関わりたい」と思っていたほどです。残念ながら、2011年に私が招致委員会の委員長として臨んだ1回目の立候補は失敗に終わりました。そこで2回目の今回は限りなくパーフェクトに近いプロポーザルを作って現地に臨み、渾身のプレゼンテーションを行い、2023年の札幌開催を勝ち取ることができました。これを言うといろいろな人に大袈裟だと笑われますが「もう思い残すことはない」という気持ちでした(笑)。

今回の2023年札幌開催の誘致成功のポイントを教えてください。

今回の2023年札幌開催の誘致成功のポイントを教えてください。

まずは、できる限り完成度の高いプロポーザルを作ることに注力しました。私がURSI本部役員の立場になって見えた2011年のプロポーザルの問題点は「会場」でした。この時は大学のキャンパスを会場として選定していたのですが、広い敷地の中で複数の建物間を移動するということは大きなマイナス要因でした。これを回避するためには、ひとつの建物内に1000人以上の参加者を収容でき、その中で全てのプログラムが実施可能な会場を用意する必要がありました。そこでJNTOに協力を仰ぎ、あらゆる会場の情報をいただいて慎重に比較し、さらに開催される時期の気候のことも考慮した上で、総合的に札幌コンベンションセンターがベストであるという結論に達しました。そうした改善点に加え、写真・図表を多用して視覚的にも訴え、さらにプロポーザルの心臓部とも言える最初の「Letter of invitation」に全てのエッセンスを盛り込み、完璧と言えるものを作り上げました。

しかしここまでの過程は当然のことで、出発点でしかありません。やはり誘致を成功させるために最も重要なのは「ロビー活動」です。URSI総会開催地は理事会投票で決まります。票数を多く持つ国からサポートを得ることは必須ですし、浮動票を取り込むことも重要です。私はまず日本を出発する前に、URSIに加入する、今回の競合国を除いた全ての国の代表に投票依頼のメールを送りました。こちらの熱意が伝われば、浮動票が日本に傾いてくれる可能性が多分にありますので。

現地に着いてからも投票の当日まで精力的にロビー活動を行いました。私の場合は元々、多くの国の代表やその側近が知人でした。また今回、開催地に立候補した国は日本を含め4か国ありましたが、助成金の規模は日本がトップでした。この点でも競合国との差別化が図れたと思っています。あとは過去の参加費を調べ、これをできる限り超えないように注意しました。

今回、JNTOや札幌コンベンションビューローとどのように連携しましたか。またそれはどのように機能したでしょうか。

国際会議の誘致は、大学の教員の集団だけが頑張っても成功しません。まず、国からの支援は大切ですね。今回はJNTOが精力的にサポートしてくださいました。私は今「MICEアンバサダー」を務めていますが、「アンバサダープログラム」の非常に素晴らしい支援プログラムを利用することで、開催候補都市の選定からビッドペーパーの作成・印刷に至るまで、いろいろな準備ができました。何と言ってもこのプログラムが優れている点は、通常助成金支給対象とならない誘致活動自体を支援していただけるということですね。

そして、自治体との連携も重要です。開催地の決定が行われた2017年のURSIモントリオール総会では、JNTOに加え、札幌コンベンションビューローからも職員の方を派遣していただきました。ギブアウェイや資料も数多く提供いただき、現地PRブースでも活躍していただいた結果、日本のブースはたいへん盛況で、「オールジャパン体制」を強烈にアピールすることができました。日本の誘致成功にあたり、本質的な役割を果たしていただいたと感謝しています。国・自治体・誘致する組織、この3つが連携をし、三位一体となって臨んだ体制が今回の誘致成功を呼び込んだと確信しています。

日本で国際会議を開催する意義を教えてください。

日本で大きな国際会議を開催することは、日本という国の国際競争力を高める意味で極めて重要です。URSIは各国の政府・アカデミー等がメンバーになっている国際学術団体のひとつですので、今回の日本開催は日本政府をはじめ各方面に対し、極めて大きなインパクトを与えることは間違いありません。そして他の理工学分野や文系分野など、日本のあらゆる学問の発展につなげていければ、と考えています。

関連するページ