誘致・開催レポート
ハイブリッド開催のケーススタディー(ICCA AP Summit)
新型コロナウイルスの影響で全てが一変した2020年。次の時代を見据えた新しい会議のあり方を示す国際会議が12月にパシフィコ横浜で行われました。
「ICCA Asia Pacific Chapter Summit 2020」(略称:ICCA AP Summit) は日本初開催の国際会議。国際会議協会(ICCA)とは、国際会議ビジネスに関わる約1,100団体が加盟する国際団体で、中でもアジア・パシフィック部会には302ヵ国・地域が参加しており、ICCAの中でも最大規模の部会です。
昨年マレーシアで開催して以来2回目となる本会議では「新たなミーティングモデルの確立」をテーマに掲げ、日本人参加者が集う横浜とオンラインで参加するアジア・パシフィック各都市のメンバーをつなぐハイブリッド形式で開催。国際会議を開催した主催者の事例紹介やハイブリッド開催の増加に伴う課題の議論、会場での感染予防対策の実践などを行いました。
会議概要
会議正式名称 | ICCA Asia Pacific Chapter Summit 2020 |
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開催期間 | 2020年12月15日~16日 |
開催都市/会場 | 横浜 / パシフィコ横浜 |
参加者数 | 150名 |
ウェブサイト | https://iccaapyokohama2020.com/ |
ICCA AP Summit 横浜誘致までの道のり。
本会議を主催したICCA Asia Pacific Chapter Summit 2020 実行委員会で、会議場となったパシフィコ横浜の村山公美様に、主催者としての観点から準備・運営についてお話をお伺いしました。
「私たちは2020年のICCA総会の誘致活動を行っていました。結果的にICCA総会は台湾の高雄で開催されることが決定されましたが、その後、アジア・パシフィック地域を対象としたサミットが創設されたため、アジア内での地歩を固め、将来的なICCA 総会につなげるため、まずはICCA AP Summitの誘致を目指すことにしました。」
当初は、横浜とは別都市に開催が決定していました。
「2019年の末に、ICCA AP Summitは中国の廈門市(シャーメン)で開催することが決定していました。ところが、中国での新型コロナウィルス感染拡大を受け、廈門市が2021年への延期を申し出たことから、審査の次点であった横浜に開催の打診がありました。
横浜での開催について本格的に検討し始めたのが、2020年の3月頃。その時点で『リスクに負けない会議づくりをする』という方向性を固め、状況に応じて、リアル開催にも、オンライン開催にも変更できるハイブリッドでの開催を目指すことになりました。」
ハイブリッド開催には様々な困難もありました。
「まず、リアル開催の時には想定していなかった機材やプラットフォームのコストが発生するという、経費的な面での難しさがありました。また、時期的に近接するICCA総会や他のMICEフォーラムなどのイベントが軒並みハイブリッドで開催されることになり、アジアの参加者にとって多くのバーチャル・イベントの時期がバッティングする事態が起きました。
また、創設して間もない会議にとって有料のオンライン参加者をしっかりと引き込むというのも難しい側面でした。オンライン参加者の満足度を高めるという点はハイブリッド会議で最大の課題であり、参加者に現地と同等のネットワーキングの機会や横浜ならではの体験をオンライン上で提供する難しさを感じました。」
リアルとオンライン参加者双方に満足してもらえるように、趣向を凝らしました。
「丸2日間の予定だったプログラムを、時差やオンライン参加者の集中力に鑑み、午後の5時間×2日に限定しました。 プログラムも最長で1時間程度に区切って、こまめに休憩をはさみました。
またオンライン参加者にも、横浜のエッセンスを感じてもらえるよう、課外プログラム(三溪園ツアー、セグウェイツアー)やバーチャル横浜体験コンテンツ(バーチャルサイトビジット、着付け、生け花、360°動画体験)をプラットフォーム上に用意しました。
さらに、ランチタイムを使って、参加者の自己紹介動画を放映しました。これは、自己紹介を見て気になった人に、プラットフォーム上のチャット機能を使用し、メッセージを送ってもらうことを期待して行ったものです。コーヒーブレーク中には、Zoomミーティングルームをバーチャルラウンジとして開放し、オンライン・リアル問わず、参加者同士がコミュニケーションできるようにしました。」
1―基調講演
山極 壽一 氏 霊長類学者・日本学術会議前会長・京都大学前総長
人類には「移動・集合・対話」という3つの自由があると考えられている中で、コロナ禍でこれらの自由を奪われた人類はいま、どのように対話し、信頼を構築するのか。開幕を飾る講演として、霊長類学者としての視点から、MICEが果たしうる役割についてお話いただきました。インターネットの発達により脳内のあらゆる情報を発信・共有することが可能となった一方で、情緒的・直感的な部分は脳内から出ることはなく、情緒的な感覚を使うことが少なくなっているのではないかと指摘。コロナによりリアルで会う機会が少なくなったが、身体的・物理的な人と人との関わりに重きを置き五感を使っていくべきではないか、という提言で締めくくられました。
2―パネル・ディスカッション -危機における協力関係と国際会議の未来-
国際会議業界の現在そして将来の繁栄を可能にする主な動向と重要戦略を明らかにする枠組み「高雄プロトコル」を紹介。同プロトコルは、アンケート調査により90カ国の専門家及び顧客270名の意見をまとめて起草したもので、ミクロ・マクロの異なる角度から世界のMICEの発展及びその趨勢に枠組みを定めたもので、各国の会員にMICEイベントを企画する際の基準を提供するもの。また、本パネルディスカッションでは、アジア・太平洋地域は他の地域と比較して新型コロナウイルスによる影響からの回復が早いことを述べた上で、アジア・パシフィックが会議のデジタル化、レガシーの価値測定、多様化、分散化など新しいモデルを示すことになるだろうとの見解が示された。参加者からは「ニューノーマルに対応した今後の目指すべき方向などを、しっかり学ぶことができ本当に良かった」との感想が寄せられました。
3―パネル・ディスカッション −ICCAアジア・パシフィック部会メンバー・カンバセーション-
各パネリストが各国の現状について説明した後、ポストコロナのアジア・太平洋地域におけるMICE業界の展望について議論しました。コロナ後もMICE業界は存続するが、変わりゆくニーズへの柔軟な対応やデジタル化、新たなテクノロジーの活用の必要性などが挙げられました。
4―ウェルカム・レセプション
通常の国際会議と同じように、開催都市である横浜の魅力を体験していただくために、感染症予防対策を徹底し、密を避けた形式でのツアーが用意されました。オンライン参加者には、横浜の景色を楽しめる動画や、生花や着付けなどの日本文化をオンデマンドで体験できる動画を提供。実際の横浜では、屋外ユニークベニュー「日本丸メモリアルパーク」を活用してウェルカム・レセプションが開催され、参加者は横浜の魅力を味わうことができました。日本丸メモリアルパークが国際会議のユニークベニューとして利用されるのは今回が初めてです。
今回のICCA AP Summitは、参加者にとって国際会議の転換点を感じる一つの機会になったようで、参加者から次のような好評の声をいただきました。
「ハイブリッド会議が本当に開催できるのか、どういった効果があるのかということを体験してみたいと思い参加しました。全員が現地で揃わなくても、きちんと会議として成立し、従来の会議と同じようにコンテンツや知識を得ることができるということがわかり良かったです」
「MICEのプロフェッショナルと呼ばれる方々が集まって行われた会議だったので、準備もかなり大変だったと思いますが、コロナ対策が徹底されていたので、たくさん見習う点がありました」
「非常に興味深く、将来のためになる会議でした。他の国々がアジア・太平洋地域で何をしているのか、そしてそれらを日本にどう適応させていくのか、その方法を考える良い機会だったと思います」