誘致・開催レポート

オンライン開催のケーススタディー (日本整形外科学会学術総会)

丸毛啓史

日本整形外科学会では、今年の6月11日(木)~ 8月31日(月)に「第93回日本整形外科学会学術総会 - オンライン学術総会 -」を開催しました。本総会は、新型コロナウィルスの影響で、全面オンライン開催に切り替えて実施されています。オンライン学会を運営するにあたっての工夫や、苦労された点等について、本総会の会長である丸毛啓史様にお話を伺いました。
オンライン開催のケーススタディー (日本整形外科学会学術総会)

会議概要

会議正式名称 第93回日本整形外科学会学術総会 -オンライン学術総会-
開催期間 2020年6月11日(木)~8月31日(月)
開催都市/会場 --- / オンライン
参加者数 15,825名

「第 93 回日本整形外科学会学術総会」の学会の内容と規模について教えてください。

日本整形外科学会の会員は現在約26,000人で、会場規模にもよりますが、例年、4日間の学術総会に8,000人から11,000人が参加します。

学会をオンライン開催に切り替えられた経緯について、教えてください。

2011年の3.11の後に、オンライン学術総会をしたことがあり、今回はそれに続き2回目となります。3.11の時とは状況が少し異なり、今年1月末の段階で新型コロナウィルスにより先行きがかなり不透明であったことから、オンライン開催を視野に入れて準備をスタートしました。2月中旬の日整会(日本整形外科学会)の学術総会運営委員会にて、オンライン開催にする場合の規模や形態についてプレゼンテーションを行い、最終的には3月の運営委員会で決定されました。

オンライン会議を開催するにあたり、主催者としてどのような点にこだわりを持ってご準備をされましたか。

3.11の後に実施したオンライン学会と、今回のオンライン学会とでは、インターネットの環境が大きく異なることもあり、新しい試みというつもりで準備をしました。単にオンラインを取り入れるだけでは面白くないので、可能な限り、オンラインでなければ実施できないような内容を取り入れ、前向きに取り組みたいと考えたところです。総会の開催に向けて過去3年間準備してきたこともあり、通常開催ができないことは残念でしたが、オンライン学会は新たな取り組みなので、「ワクワク感」の方が非常に強かったです。あれもやってみたい、これもやってみたいという思いの中で、バーチャル展示会、医工連携のニーズ発表会、e-sports大会、オンライン懇親会などを企画しました。
また、通常開催では、NHKエンタープライズとの連携の下、最新の映像技術を使用した「整形外科とはどういうものなのか?」という3D映像を作成、上映しようとしていましたが、オンライン開催となったため、その映像をYoutubeで視聴できるようにしました。運営PCOが作成した「幻の福岡開催のアニメーション」もウェブサイトで公開しました。PCOの皆さんにも最後までお付き合いいただき、このような楽しい企画を実施でき、私としても非常に満足しています。

オンライン会議ならではのトラブルはあったのでしょうか。差し支えない範囲で教えてください。

とにかくシステムが大事です。今回の場合、システムダウンの影響で開会式の映像をオンラインで流すのが1週間も遅れました。どれくらいの人がどの期間に集中してアクセスするのかを事前に予測するのは難しいところです。
今回構築したシステムは、余裕をもった設計になっていました。しかし、本総会の特徴として、参加者に教育研修のポイントを付与するためには、従来の日整会システムにある会員情報とリンクする必要がありました。具体的には、教育研修の受講状況や試験の結果等が、各会員の情報と紐づく必要があるのですが、日整会システムと今回のオンライン学会システム間のネットワークが細かったため、新しく構築したシステムから日整会の会員情報を取りに行く際に渋滞が起こり、結果としてネットワークがパンクしてしまいました。後から、日整会本体のシステムを増強して、スムーズに接続できるようになりました。

今回のオンライン学術総会の開催は、6月11日から8月31日までと伺っていますが、参加登録の状況はいかがでしょうか。

最終的には、15,000人程度になると予想しています。
※最終報告レポートによると、非会員、演者、招待者等を含めて、合計で15,825人が参加されました。

オンライン開催へ切り替えた際には、従来の総会と同程度の参加者数を見込んでいたのでしょうか。

 いえ、そうではありませんでした。2011年のオンライン総会開催時は、4,300人しか参加者がなかったので、まずは2011年の参加者数をベースに参加費を設定しました。一方で、今回は教育研修の単位が最大28単位まで取得できるシステムになっていたので、参加者は前回よりも多いのではないかと考えていました。加えて、日整会の教育研修講演は、日本全国で年間4,000件程度開催されていますが、新型コロナウィルスにより2~3カ月分の講演が全く開催されなかったので、資格更新のために教育研修の単位を必要とされている専門医が多いのではないかとも考えていました。とはいえ、予測するのは非常に難しく、予算立てをした後で、オンライン開催にした場合、参加者が増える傾向があるということを各所から聞いたところです。
 実際にふたを開けてみると、参加者が多く黒字額が膨らんだという結果になりました。今回の会費は18,000円であり、結果的にはもっと安くしても良かったのかもしれませんが、通常開催のキャンセルに伴い、会場、ホテル、海外からの招待者の航空券等に係る高額なキャンセル料の試算もあったため、理事会で最終的に前述の参加費を決定したところです。

当初開催を予定されていた会場のキャンセル費は免除されたのでしょうか?

利用を予定していた会議施設は公的な施設であったことから、緊急事態宣言に伴いキャンセル費のほとんどが免除されました。一方で、ホテルは、多少の割引はあったもののそういうわけにはいきませんでした。また、海外から来日を予定していた演者の方で、正規料金ではなく割引料金による航空券を購入されていたため、却ってキャンセル料が高くなったということがありました。当初は相当な額のキャンセル料が試算されていましたが、最終的にはかなり圧縮されました。

海外招待講演は予定通り実施されたのでしょうか。

海外からの招待講演に関しては、全体で35セッション、41演題を予定していましたが、オンライン開催では25セッション、27演題に減りました。また、AAOS(米国整形外科学会)との関連プログラムとして8演題予定していましたが、こちらも実際には7演題に減りました。

講演数が減ったとのことですが、オンラインでの講演が難しい方が辞退されたのでしょうか?また時差の問題もあるのでしょうか。

ランチョンセミナーに関しては、企業側のコンプライアンスの関係で、オンデマンドの配信はできませんでした。このため、ランチョン及びイブニングセミナーのすべてをライブ開催にしたのですが、海外の方は時差の関係からライブイベントへの参加が難しく、当初の予定よりも海外の方による招待講演は10件ほど少なくなりました。会議全体としては、記念講演、特別講演、一般講演、ポスターセッション等、予定していた講演の90%はオンラインで開催しました。

講演に係る動画の撮影は、講演者ご自身で対応されたのでしょうか?

ランチョンセミナーについては、ライブ配信であるためこちらから撮影しに行きました。
記念講演、特別講演については、場を用意してこちらで録画しました。通常の教育講演は、講演者ご自身で撮影いただいたはずですが、やはり慣れている方ばかりではないので、問い合わせがたくさんあり、多い時では1日に250件の問い合わせがありました。システムダウンの問題もありましたので、オンライン会議を開催した最初の1ヶ月は大変でした。

オンライン開催となり、スポンサーの考え方に違いはありましたか。

製薬メーカーは普段からオンラインによる情報発信することを行っていることもあり、当初の予定ではランチョン及びアフタヌーンセミナーで合計55団体の申し込みがありましたが、最終的に54団体がオンラインでも共催セミナーとして参加してくれました。オンライン対応不可の企業も2~3社ありましたが、逆にオンライン開催となったことで、新たに1~2社が新規に参加してくれました。
一方、展示会についてはバーチャル展示会形式にしました。通常総会への出展を決めていた99社のうち、オンライン開催に参加した企業(広告だけの企業も含めて)は40社、そのうち、バーチャル展示を制作した企業は29社です。収入ベースでは、40社の合計で、6割程度に減りました。

バーチャル展示会について、スポンサーからのフィードバックがあれば教えてください。

会員向けにお送りしたアンケートの結果が判明すると、もう少し詳しいことを言えると思うのですが、やはり、インタラクティブでないと展示する意味がないとお断りされた企業がかなり多くありました。ただ、ある大企業の方と話をした時に、「中小企業ほどオンラインを積極的に活用することで自社をアピールできるのではないか。そうした企業の方が出展を取りやめたことは意外だった」というコメントをされていました。
今後、こういったオンライン開催が開催形式のオプションとして定着したり、部分的にオンラインで開催するいわゆるハイブリッド型になったりと会議の形態が変わっていくと思います。今回は、我々のアピールの仕方が足りなかったのかもしれませんが、中小企業の方がもう少し自社を表現できる仕組みを整えれば、バーチャル展示会にももっと参加いただけるのではないかと感じています。
なお、今回参加されたグローバルな大企業も実際にバーチャル展示会に参加したのは初めてだったということで、参加報告が社内報でも取り上げられたというお話を聞いています。そういう意味では、今回のバーチャル展示会は、先進的な取り組みだったと言えるかもしれません。

大学対抗 e-sport 大会を開催されたと伺いました。通常の学会でもスポーツ企画があるそうですが、オンラインでも実現されたのですね。詳細について教えてください。

日整会はスポーツ業界と切っても切れないところがあるので、日整会が始まって間もないころから、総会に併せて野球大会を開催していました。15年前からはサッカーを始め、3~4年前からはバスケットも開始しています。こうした背景の下、昨今e-Sportsが認知されつつあることも踏まえて、面白いし、怪我もしないのでやってみようということになりました。

今後の学会の開催形態はどのようになるとお考えでしょうか。

 オンラインでの開催はこれで終わりということにはならないと思います。経済的、時間的な負担軽減という意味でもICT化はより進んでいくでしょう。それでも、リアルな会議には、やはり意義があると思っています。特に若手の参加者にとっては、海外の著名な先生方と直接会って話をすることで留学の話になったり、自分をアピールできたりとFace to Faceでなければできないことが沢山あります。
 最後に、整形外科の分野の話になりますが、非常に多くの学会や研究会があるため、これらを整理・統合し、それぞれの学会の意義をしっかり示す必要があると考えています。この意味で、今回のコロナ禍は良い機会になると考えています。ちょうど2026年に、日整会は創立100年を迎えますが、スポンサーシップの面でも、これまでと同じように多くの学会・研究会をそのまま継続するのは難しいでしょう。日整会の主導の下、会員全体のために、関連の学会・研究会を大幅に見直し、整理していくべきではないかと思っています。

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