誘致・開催レポート

世界最大で最も影響力のあるロボット国際会議のひとつ「The 2022 IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems(IROS2022)」が、国立京都国際会館で開催

立命館大学 理工学部 ロボティクス学科 馬 書根 教授

世界最大で最も影響力のあるロボット国際会議のひとつ「The 2022 IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems(IROS2022)」が、2022年10月23日から27日の5日間、国立京都国際会館で開催されました。
北米やヨーロッパ、アジアなど計57か国から参加した研究者・技術者は、オンライン参加者891名を含む4,300人以上。「共生社会に向けた身体性AI」をメインテーマに、活発な討議が行われました。
前回(2020年)と前々回(2021年)は、完全なオンライン形式で開催されましたが、今回は対面とオンラインによるハイブリッド形式を初採用し、国内外から多くの参加者が対面で参加しました。
実行委員長をつとめた立命館大学の馬書根先生に、コロナ禍という状況での開催の苦労や工夫した点、成果などについてお話を伺いました。

世界最大で最も影響力のあるロボット国際会議のひとつ「The 2022 IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems(IROS2022)」が、国立京都国際会館で開催

会議概要

会議正式名称 The 2022 IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems(IROS2022)
開催期間 2022年10月23日~10月27日
開催都市/会場 京都 / 国立京都国際会館
参加者数 4,300名
ウェブサイト https://iros2022.org/

参加者のメリットを第一に考え、ハイブリッド形式での開催を決定

参加者のメリットを第一に考え、ハイブリッド形式での開催を決定

IROS2022の開催準備にあたって、大きな課題となったのは開催の形式でした。実行委員会では、新型コロナウイルスの感染状況や水際対策を踏まえて議論を何度も重ね、開催まで3カ月となった2022年7月にハイブリッド形式での開催を決めました。
研究発表のみであれば、オンラインだけでもそれなりの成果は期待できます。ですが、国際会議の大きな意義である参加者同士の交流やネットワーク作り、研究課題の深い議論を促すには、やはり対面形式が一番。それがオンサイトに比重を置いたハイブリッド形式の開催を決断した一番の理由です。
懸念は、現地参加を希望する方がどれくらいいるかということでした。おそらく1500人ほどの現地参加希望があれば開催は可能なはずと考え、ホームページやSNSなどを活用し、開催場所である京都の魅力発信も交えて積極的な宣伝活動を行いました。また、当初は日本の水際対策で外国人の新規入国の際にビザ申請が必要だったため、同伴者の方が一緒に来日できるように同伴者向け文化プログラムを企画するなど、多くの研究者に現地に行ってみようと思っていただけるよう工夫を行いました。
結果的に、水際対策の緩和が発表される前でありながら、9月頃には現地参加の登録者は2000人を超えました。

安全に現地参加ができるための様々な対策を実施

安全に現地参加ができるための様々な対策を実施
安全に現地参加ができるための様々な対策を実施

海外でも再び感染の広がっている地域がありましたので、IROS2022に参加する国内外の幅広い年代の研究者が安心して他の参加者とのコミュニケーションを取れる場を作るため、感染症対策をきちんと行いました。たとえば感染対策については、感染症専門の先生をアドバイザーに迎え、根拠に基づいた対策を立案。特に会場入場者全員に対し、入場までの72時間以内の抗原検査やPCR検査の陰性証明の提示を依頼しました。ネガティブな反応もあったものの、参加者全員に協力していただきました。また、大人数の密な状況をつくらないため、恒例となっているウェルカムパーティやガラディナーなどの開催は見合わせました。結果として、会議期間中のコロナ感染者の報告はありませんでした。
感染対策は大切ですが、参加者に我慢を強いるのみだけではなく、楽しんでもらわなければいけません。パーティを取りやめた代わりに、昼食には豪華な弁当を配布し、日本酒や和菓子などのお土産を充実させました。食事場所についても、会場である京都国際会館の広い敷地を活用し、参加者同士が大人数にならずに交流できる屋外のエリアを用意するといった工夫を実施しました。最終日に野外での和太鼓の演奏や豪華な花火の打ち上げなど、参加者へ最大の「おもてなし」を行いました。
こうした取り組みを通して、後の開催のための課題を見つけることもできました。たとえば、このような状況においては、例えば国際会議の開催期間中に限り、市内の飲食店で自由に使える飲食券を弁当の代わりに配布することができれば、より開催地を楽しんでもらえて良かったかもしれません。また、恒例になっているロボコンは、小・中学生を含む一般の方にも参加してもらいたかったのですが、感染対策の観点から実現できなかったのが残念でした。
システム面では、QRコードを使用した参加登録システムを採用したことで、とてもスムーズに受付の運営をすることができました。今後の大規模な会議の開催を考えると、IEEEと協力して開発・提供されているPaper Plazaのような、様々な会議に統一的に使用できる参加登録システムが準備されるとうれしいですね。

オンライン参加者にも満足してもらえる工夫

IROS2022では、オンラインと現地で分け隔てなく発表や議論ができるよう、オンライン会議のツールとして研究発表にZoom Webinarを採用し、テクニカルセッション時間外の議論用にZoomのブレイクアウトルームを用意しました。 Zoomを採用した理由は、参加者が最も使い慣れたツールであるからです。オンラインでの参加希望者の中には、感染が不安な高齢の研究者も少なくないはずです。そうした方でもスムーズに操作できるよう、独自のツールではなく、Zoomを使うことにしたのです。
その一方で、ハイブリッド開催におけるネットワークの環境整備の重要性も実感しました。以前はノートパソコン1台で参加する方がほとんどでしたが、今はタブレットなど複数のデバイスを所有していることが当たり前になっています。会場のネットワーク回線は、それを見越して余力を確保しておく必要があります。

若手研究者の積極的な参加

若手研究者の積極的な参加

今回の会議では、学生を含めた若手研究者の参加者が非常に多く、参加者の半分弱が若い研究者だったという印象です。3年ぶりの開催だったため、学会や国際会議を経験したことのない研究者が、一度参加してみようと考えてくれたのだと思います。研究には新しいアイディアを得るための交流やネットワーク作りがとても大事ですので、ベテランの研究者がこの機会に若手研究者に対して積極的に参加するように促したのかもしれません。加えて円安という追い風もありました。
渡航費用の問題は、若手研究者や途上国からの参加者にとって深刻です。ハイブリッド形式は自国にいながら現地参加の研究者と交流ができるので、その点でも大きな意味があったと思います。

日本の文化を楽しんでもらうための様々な工夫

日本の文化を楽しんでもらうための様々な工夫

ウェルカムパーティやバンケットなどの開催を見合わせた代わりに、今回は日本の文化を楽しんでもらえるイベントを積極的に実施しました。
フェアウェルイベントとして花火や和太鼓を準備した他、華道や茶道、書道などの日本文化に触れるワークショップなど、いくつものイベントを行いました。ワークショップについては立命館大学をはじめ、おなじ分野の先生方の家族にも手伝ってもらい、参加者にはとても喜んでもらいました。お土産についても、京滋の有名なお菓子をはじめ、日本酒や枡、風呂敷など、日本の伝統文化を感じていただけるものを選びました。これが参加者同士の交流のきっかけにもなり、やってよかったと思います。
加えて今回は、歴史ある京都の寺院「大覚寺」を会場とし、人数制限を設けてVIP向けのイベントも実施しました。皇室ゆかりの寺院ということもあり、海外のゲストにはとても興味深い体験になったと思います。ふだんは公開していないエリアもご覧になっていただけたことや、天気も良く、美しい夜景も堪能できたことから、大勢の方に喜んでいただけました。
寺院についての英語の説明があれば、日本の文化をもっと深く理解してもらえたかもしれません。

SDGsの意識を高める取り組みも展開

SDGsの意識を高める取り組みも展開

今回の会議ではサステナビリティに関する取り組みも積極的に実施しました。
通常、会場で配布するプログラムや論文ダイジェストの冊子については、アプリを活用することで、印刷物の量の大幅低減を実現しました。また、参加者に配布するコングレスバッグも、これまでのアクリル製からエコマークがついたコットンバッグに変更しました。
また、マイタンブラーを配布したことで、会議中のコーヒーブレイクでは、使い捨ての紙コップが必要なくなり、紙資源を節約することができました。コーヒーのサーブも各自で行うため、運営コストの軽減にもつながります。マイタンブラーは、参加者にとって、土産にもなるうれしいプレゼント。このような取り組みは、社会に貢献したいという運営側IROSの姿勢の表れです。
SDGsの意識がまだまだ浸透してない国も少なくありません。今回の取り組みが、意識を高める一助になればうれしいです。

大きな成果を得ることができたIROS2022

IROS2022は、企業にとって才能豊かな若い学生と出会う機会になり、今後の人材を確保するうえでも役立っていると思います。
今までは、企業は自社の製品・技術を紹介することに重点を置いていましたが、今回は学生や若手研究員を対象とした採用活動に大きく力を入れていました。近年では、大学を問わずIROSで発表できるような学生は優秀で積極性があるということが認識されているようです。来年以降予定されている会議では、企業と学生のマッチングの機会を設けることも議論されています。
今回の会議で得られた様々なノウハウは、2024年に横浜で予定されているロボット系の会議「第41回ロボット工学とオートメーションに関する国際会議(ICRA2024)」の開催においても、大いに活かされるはずです。

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