北海道・帯広の魅力と地域連携で成功に導いた第20回国際動物繁殖学会

国際会議をはじめとするMICEの開催は、国内外から多様な人材や知見の流入を促し、地方の活力維持に寄与するとともに、開催都市の学術や産業の発展を後押しすることが期待されています。帯広で開催された「第20回国際動物繁殖学会(ICAR 2026)」は、畜産に関連する地元のアカデミアと産業界並びにステークホルダーが一体となって開催地に新たな価値を生み出した地方開催のモデルケースといえるでしょう。畜産分野で最も歴史ある国際会議ICAR 2026が地域にもたらした効果について、ICAR 2026事務局長で北里大学獣医学部獣医学科教授の菊地和弘先生にお話をうかがいました。

北里大学 獣医学部 獣医学科 獣医臨床繁殖学研究室
菊地 和弘 教授

会議概要

会議正式名称 第20回国際動物繁殖学会(20th International Congress on Animal Reproduction)
開催期間 2026年6月22日~26日
開催都市/会場 北海道帯広市 / 帯広市民文化ホール、とかちプラザ、ホテル日航ノースランド帯広、北海道ホテル
参加者数 1,133名

なぜ帯広だったのか―地方開催を選んだ理由

ICARは、畜産分野の研究者の多くが参加を目指す、4年に一度開催される歴史ある国際会議です。これまで開催地は欧米に限られ、日本はもちろん、アジアで開催されたことはありませんでした。国内では以前から誘致を望む声がありましたが、長年実現には至っていませんでした。転機となったのは、従来の個人による対応から、日本繁殖生物学会が組織として誘致に取り組む体制へ転換したことです。2016年には、学会の推薦を受けて私が国際組織の理事に就任し、本格的な誘致活動がスタートしました。

開催都市の選定にあたっては、「東京、大阪、京都などの大都市は、既に訪れたことがある海外研究者が多い」という意見があり、地方開催を前提に検討を進めました。開催地を帯広とした理由の一つは、畜産分野で世界的に著名な宮本明夫先生が帯広畜産大学特任教授を務めており、大会長として適任者であったためです。また、十勝・帯広は、日本有数の畜産のメッカであり、畜産業に携わる人々や関連産業の集積地であることも、開催地選定の大きな理由でした。

ICAR 2026大会長 宮本明夫先生
参加者を迎えるICAR 2026ののぼり旗

コンベンションビューローやPCOとの連携が、研究者の負担軽減と円滑な大会運営を実現

当初は、開催実績が必ずしも多くない帯広での開催に不安もありました。宿泊施設の客室数や参加者のアクセス、気候や地震への対応など、検討すべき課題も少なくなかったことから、最初に相談したのが帯広観光コンベンション協会でした。同協会から開催環境に関するさまざまな情報提供を受け、帯広で十分に開催が可能であるとの確信を持つことができました。さらに、自治体(北海道・帯広市)の助成金制度、会場手配に関する支援、帯広市との連携、会期中の市民公開講座への対応など、地域で培われた経験やネットワークを活かした幅広い支援を受けることができました。

会議運営については、北海道を基盤として実績のあるPCO(会議運営会社)に依頼しました。地元のPCOとして会場を熟知していたことから、必要な機材の手配なども円滑に進み、安心して運営を任せることができました。国際会議の開催には膨大な準備業務が伴うため、研究活動への影響を懸念して誘致をためらう研究者も少なくありませんが、PCOと適切に役割分担し、必要な実務を委ねることで、研究者として本来担うべき役割に専念することができました。

また、準備段階では、JNTOをはじめ、帯広市、帯広観光コンベンション協会、PCO、旅行会社など、多くの関係者と連携しながら、一つひとつ課題を解決していきました。困った時は、まず相談する。そうすれば、誰かが必ず解決のヒントをくれる。こうした周囲との連携が、開催までの大きな支えになりました。

開会式の様子
地元の高校生によるブラスバンドの演奏
バンケットでの地元団体の演奏

「帯広らしさ」が参加者を魅了―地域の食とおもてなし

参加者に開催地ならではの魅力を感じてもらうことも、国際会議の成功に欠かせない要素です。今回は、北海道・帯広らしさを体感できる企画を数多く取り入れました。
その一つが、オリジナルビール「ICAR Beer」の製作です。地元ブルワリーの協力により実現し、参加者からは「飲まずに記念として持ち帰りたい」といった声が多数寄せられるなど、大変好評でした。また、帯広観光コンベンション協会の協力のもと、「Tasting Hokkaido」と題したイベントを開催しました。屋外にて、北海道産の肉や魚、野菜などをバーベキュースタイルで提供し、多くの参加者が北海道の食の魅力を楽しみました。屋外での開催では天候が心配ですが、雨天時には屋内へ切り替えられるバックアップ体制が予め整えられており、安心して実施することができました。

参加者に好評だった「ICAR Beer」

また、各種エクスカーションも地域の特色を伝える良い機会となりました。アイヌの文化体験ツアーでは、ユネスコの無形文化財になっている古式舞踊の鑑賞と体験を通じて、アイヌの人々と直接ふれあいながら、その文化と精神に触れる貴重な時間を過ごしました。

さらに、市内にはICAR 2026の歓迎バナーが掲出され、街全体でICARの会議を歓迎する雰囲気が演出されました。こうした取り組みは、海外の参加者に対するホスピタリティの側面だけではなく、帯広市の皆さんにとって、ICARの開催を広く知ってもらうきっかけにもなりました。

参加者からも、「街の人が親切だった」「最高の開催地だった」といった感想が数多く寄せられ、地域の自然体で温かいおもてなしが、参加者の満足度向上につながったことが伺えます。

アイヌ民族との交流を楽しむ参加者たち
北海道の食とよさこいソーランを楽しむ参加者たち

ICAR開催が日本に与えるインパクトとレガシー

今回の国際会議が帯広で開催されたことは、日本の畜産業界に大きな効果をもたらしたことは言うまでもありません。その効果は、参加者が十勝の地に降り立つ前から始まっていたと思います。飛行機の窓から見渡せる十勝の広大な牧場の風景は、日本の畜産の規模や魅力を海外参加者に印象付ける機会になったのではないでしょうか。

また、「Tasting Hokkaido」などで提供した北海道産の牛肉は、参加者から非常に高い評価を受けました。世界各国から集まった畜産分野の研究者や企業関係者に、日本の畜産物の品質や魅力を直接知っていただく貴重な機会となったことから、今後日本の畜産物の認知度向上や輸出拡大につながることを期待しています。

十勝の雄大な牧場風景

企業展示では、研究機器や繁殖技術を有する企業と研究者との交流が活発に行われました。こうした出会いが、新たな共同研究やビジネス展開に発展していくことも期待されます。また、世界最先端の研究者が集う場で、日本の研究者が研究成果を発表し、活発な議論を交わしたことは、若手研究者にとって非常に貴重な経験となりました。同時に、日本の畜産研究の国際的なプレゼンス向上にも寄与したのではないかと考えています。

ポスターセッション・企業展示の様子

未来につなぐ国際会議―人材育成と次世代への期待

日本繁殖生物学会では、ジェンダーバランスを重要なテーマの一つとして位置付け、男女共同参画委員会を設置し、20年以上にわたりダイバーシティの推進に取り組んできました。発表者だけでなく、座長についても男女比を意識しています。ICAR 2026では、58の国と地域から多様な研究者が集まりましたが、特別な数値目標は設けなかったものの、参加者や発表者は男女ほぼ半数という印象でした。海外からは若手研究者の参加も多く、次世代育成という面でも意義のある会議となりました。

一方で、日本では若手研究者の減少が大きな課題となっています。博士課程終了後のポストが限られていることなどから、研究職を選ばず民間企業へ就職する人も少なくありません。こうした状況を踏まえ、学会では市民公開講座や高校でのアウトリーチ授業などを通じて、畜産分野の研究の魅力を伝え、将来の研究者育成に取り組んでいます。

今回のICARを契機に、日本で再び畜産分野の国際会議が開催される機会が生まれることも期待しています。研究者同士が継続的に交流することで、新たな共同研究や国際的なネットワークの形成につながるでしょう。

畜産分野に限らず、国際会議の価値は、人と人との交流から新たな研究や連携が生まれ、科学技術の発展につながることにあります。日本で開催することには大きな意義があり、その価値は今後さらに高まっていくと考えています。

展示ブースでのコミュニケーション
ポスターセッションで交流する参加者たち
ガラディナーで参加者と歓談する菊地先生

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