誘致・開催レポート

会員拡大を目指して、2つの国際学術団体の合同会議をアジアで初めて開催!
自然史標本保存学会・生物多様性情報標準化委員会 2024年沖縄合同大会(SPNHC-TDWG 2024)

国際会議が開催される場合、通常は、日本国内にローカルホストとして組織委員会や実行委員会などが組織され、国際本部との連携のもと、準備から開催当日までの実務を担います。一方で、今回のSPNHC-TDWG 2024はローカルホストが存在せず、国際団体直轄の運営体制で開催されました。日本に受け入れ団体がなく国際本部が直轄で運営するというチャレンジングな環境でしたが、コミュニケーションを密にはかることで成功裏に開催されたようです。また、参加者の半数以上が初めての来日ということで、事前に入念な旅行の計画を立て、沖縄の美しい海でマリンスポーツを楽しんだり、多様な文化を体験するなどして、沖縄をはじめ日本各地に感動していただいたようです。そこで、今回の会議の成功までの道のりと参加者のみなさんの様子をキーパーソンのおひとりである蔭山麻里子氏にうかがいました。

SPNHC-TDWG2024 組織実行委員会 蔭山 麻里子 氏

会議概要

会議正式名称 自然史標本保存学会(SPNHC)・生物多様性情報標準化委員会(TDWG) 2024年沖縄合同大会
開催期間 2024年9月2日~6日
開催都市/会場 沖縄県宜野湾市 / 沖縄コンベンションセンター
参加者数 580名(会場参加:377名、オンライン参加:約200名)

多くの都市が誘致を躊躇していたコロナ禍中の開催地選定

TDWG、SPNHCとも、定例的には欧米の都市で開催していましたが、コロナ禍によって先が見えなくなってしまったため、多くの都市がキャンセル料などのリスクを恐れて、立候補をしない状況が起きていました。国際本部が2024年の開催地を検討するタイミングはまさにコロナ禍真っ只中であり、それ以前に決まっていた開催予定が大幅に変わってしまいました。そのような中で、アジアにおける会員の拡大を目指していたTDWGがまずアジア地域での開催を検討し始めました。その中で、新たな国立沖縄自然史博物館の誘致設立の計画があり、豊かな自然を残している沖縄が、国際本部の目的に合致する点が多いと評価され、開催地として選ばれました。その後、SPNHCが沖縄でのTDWGとの合同開催を決定したという経緯です。元々、両学会とも会員は欧米の研究者が多く、アジア、日本における新たな会員の獲得は会議開催の目的の一つだったという背景があります。

会場外観
開会式・基調講演の様子

国際本部のキーパーソンに聞いた「沖縄開催」決定の経緯

TDWG開催地選定委員会の前委員長であり、ベルギー国立植物園・王立中央アフリカ博物館のリエゾンオフィサーであるPatricia Mergen博士は、2019年JNTOの招請プログラムで初来日し、沖縄を視察しました。この会議の開催地として沖縄を推薦した理由を以下のように語っています。

「私たちの会議は、これまでもよく大都市以外の都市を開催地に選んでいます。沖縄には熱帯の環境、歴史、独特の食べ物や飲み物、リゾート施設があります。また、北部には生物多様性が豊かな地域があり、私たちのターゲットである他のアジア諸国の参加者にも魅力的な場所であると認識しています。将来、自然史博物館を建設する計画もあり、沖縄の方々が我々の会議を歓迎してくれる気持ちも伝わってきたので、もし日本に来るならこの場所を選ぶべきだと提案し、SPNHCにも合同開催できるよう説得しました。」

Patricia Mergen博士
エクスカーションで訪れた湿地帯
沖縄らしい熱帯植物林

ローカルホスト不在の開催を関係者の熱意でクリア

Patricia Mergen博士が沖縄を視察し、国際本部としても開催できる環境が沖縄にあることがわかりましたので、2021年夏に、沖縄開催に向けて準備を始めるにあたり、国際本部より「ローカルホストをみつけてほしい」という打診がありました。私が海外在住であるため、日本国内でホストを担ってくれる機関を探しましたが見つからず、最終的に国際本部ならびに両学会の会員有志が組織実行委員会として直接コントロールする形で開催することになりました。国際本部をはじめとする関係者の「やり遂げよう」という熱意があったので開催できたと思いますが、大変異例なことだと思います。今回の会議が成功したことで、このような形式で開催できることが分かりましたし、準備段階でもさまざまな知見を得ましたので、今後の開催に役立つ実績になったと思います。

蔭山麻里子氏

存在感があったローカルPCO

開催までの準備にあたって大きかったのはローカルPCOの存在です。担当者は若手の日系アメリカ人のスタッフで、英語のネイティブスピーカーでしたので、国際本部とのオンライン会議も問題ありませんでした。彼の国際感覚と英語力のおかげで、国際本部も「日本で開催できる」と実感してくれたように思います。また、今回の会議開催にあたっては、観光庁の「国際会議の開催効果拡大実証事業」の採択を受けたため、日本語のみでの打ち合わせもありましたが、私とPCOの担当者が参加した後、国際本部にすぐに内容を報告するなど、日本語ができる関係者と国際本部のコミュニケーションを密にして情報を共有するようにしました。

ウェルカムレセプションで賑わう参加者たち

沖縄観光コンベンションビューローの情報を元にサステナブルな開催を実現

沖縄県および沖縄観光コンベンションビューローが作成しているサステナブルな会議開催を支援するガイドラインには、サステナブルな取り組みを実施するためのチェックリストがあり、とても役に立ちました。このチェックリストにより、会議としての行動規範に沖縄に配慮した項目を反映したり、可能な範囲で自然環境への配慮を行うなど、サステナビリティへの取り組みを行うことができました。閉会式では、サステナビリティの取り組みについて成果を発表する機会を設け、参加者からの拍手と評価をいただくことができました。

沖縄MICE開催におけるサステナビリティガイドライン
沖縄の伝統工芸「琉球びんがた染め」体験
閉会式でのサステナビリティに関する成果発表

博物館文化の違いと日本の現状

日本においては、自然史博物館に関する研究者・技術者の人数がとても少ないのが現状です。これには、博物館の組織とそこで働く人の役割が欧米とは異なることが影響していると思います。日本の博物館の学芸員は、その分野の専門家として研究のみを行っている人は少なく、ほとんどの場合、来館者のためのイベントや展示の企画などあらゆる業務に携わります。一方で、欧米では、自然史博物館の職員の多くは、標本や資料を体系的に保管整理して学術的に研究し、データをデジタル化し公開していくという仕事を行う専門職です。こうした「博物館文化の違い」を背景に、日本では、自然史科学の学問として研究したい人はいても、博物館資料の保存管理やデータの情報公開に関連する学会を組成するだけの規模には至っていません。今回の会議に国内から参加してくれた人もいましたが、全体の1割に満たず、沖縄県内の大学研究機関からの参加者も数名でした。開催地の参加人数としては少ないと言わざるを得ません。また、スポンサー集めや基調講演のスピーカー探しなどに苦慮したことも、日本における本分野の認知度の低さが影響したのではないかと思われます。

e-ポスターセッションでの日本人参加者

国際本部にとってのインパクト

TDWGは元々国際的な学会であり、各エリアに代表がいます。アジア地区の代表は2024年末まで日本人の方が務めていました。他方、SPNHCは、欧州と北米の会員が中心であり、豪州については、2018年にSPNHCがTDWGと初めての合同大会をニュージーランドで開催してから、参加者が増えました。その一方、これまではアジアのみならず、中東やアフリカ、南米の会員もほとんどいませんでした。学会としての意識改革も必要ですし、今後はSPNHC単独でもアジアや他の地域で開催できるようにならなければなりません。本格的な国際化に向けて、今回の沖縄開催は大きな自信になったと思います。実際、日本の博物館に関する発表で示された経験や知見は両方の学会にとって大変興味深い内容でした。欧米中心のコミュニティにとっても、インパクトがあったと考えます。

初来日の参加者が日本をエンジョイ

おそらく半分以上の海外参加者が、今回初めて日本に来たのだと思います。事前の段階から、行ったことがない場所に行けることに参加者は皆ワクワクしていました。沖縄文化や歴史を体験するエクスカーションや、ウェルカムレセプションで披露していただいた伝統芸能など、参加者からは初来日らしい感動した様子が見てとれました。用意周到にダイビングやシュノーケリングを手配し海洋生物を見てきた参加者や、沖縄だけでなく全国の陶器の町を訪問する陶器が好きな参加者など、日本に来るにあたって意志と目的をもって旅行を計画し、楽しんでいたように思います。会議後、沖縄から最終的な出国地となる羽田や成田などに戻る間に、九州や大阪・京都、東京などを旅行した人も多かったようで、SNSなどを見ていると、1か月をかけて北海道までの日本縦断旅行をしている人もいました。

ウェルカムレセプションでの沖縄エイサー
サプライズで会場に現れた獅子舞によるパフォーマンス

一石を投じた日本初開催

今回の沖縄での会議開催は、私たちの研究分野を、今回初めて参加した日本の研究者の方々にも認識してもらい、こういった発表の場があることを知ってもらう一種の「exposure」の機会となった点で良かったと思います。これをきっかけにアジア地域における研究者のネットワーク作りに繋がることを期待したいと思います。同じアジアでも、台湾など日本以外の国・地域からの参加者は、比較的若手の研究者が多かったように見受けられましたが、日本の参加者の大半は中堅以上の世代の方たちでした。他のアジアのパワーに負けないよう、日本でももっと若い世代の研究者に参加してもらい、アジア地域のコミュニティが作られればと願っています。

参加者同士のネットワーキングの様子
参加者同士のネットワーキングの様子

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