誘致・開催レポート
能楽ホールでの国際会議~奈良の自然と伝統文化に触れた5日間!~
第17回国際寄生植物学会(17th World Congress on Parasitic Plants)
「古都奈良の緑豊かな庭園のような環境」と表現された奈良春日野国際フォーラムを会場に、寄生植物の国際学会が開催されました。参加者は能舞台のある能楽ホールでセッションに参加し、鹿寄せや雅楽の演奏、狩衣装束の着付けなどを体験。また、奈良公園に自生する様々な植物の観察や、鹿とのふれあいの機会も創出するなど、地域の資源と特徴を生かした国際会議の理想形とも言える成功事例となりました。多くの企画と万全の準備で参加者にとって満足度の高い会議へと導いた、大会準備委員会の吉田聡子委員長に成功の秘訣をうかがいました。
バイオサイエンス領域 吉田 聡子 教授
会議概要
会議正式名称 | 第17回国際寄生植物学会(17th World Congress on Parasitic Plants) |
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開催期間 | 2024年6月3日~7日 |
開催都市/会場 | 奈良 / 奈良春日野国際フォーラム 甍〜I·RA·KA〜 |
参加者数 | 140名 |
あらゆる開催環境が整った都市「奈良」
今回の開催の最大の成果は学術的に大変充実していた点ですが、次に大きな成果は約140名の植物研究者の皆さんが大変楽しんで帰られたという点です。会場の奈良春日野国際フォーラムは瓦葺きの美しい建物で、緑豊かな奈良公園の景観と調和した落ち着いたたたずまいの施設です。その中でも会場として能楽ホールを使用したことから、参加者にとって非常にインパクトのある会議となりました。また、奈良公園は自然に恵まれた場所であり、公園内を散歩して寄生植物を発見したという参加者もいたようです。奈良は本学会の開催にあたり、あらゆる環境が整った開催地であると言えます。
「奈良には行ったことがない」、「こんなに多くのお寺や神社などがあるとは知らなかった」という参加者がほとんどでしたが、奈良は国際会議開催の実績もあり、インフラ面での問題はありませんでした。唯一、説明が必要だったのは、能楽ホールの能舞台に上がる際には「靴を脱ぐ」ということでしたが、参加者はそれも日本ならではのユニークな体験として捉えてくれたようです。国際会議のオーガナイザーの一人がSNSで会場を紹介したところ、国内の方々も会議を能舞台で実施することに面白さを感じてくれたようで、投稿にかなりの反響があったと聞いています。
今回の会議参加者の1人で、オープニングスピーカーも務められたDamaris Achieng Odeny氏は、開催地としての奈良についてこのようにコメントしています。
「古都奈良は、緑豊かな本当に素敵な環境でした。会場の奈良春日野国際フォーラムは、美しい奈良公園の森林に囲まれ、有名な大仏を祀る東大寺のすぐ隣にあります。日本には寄生植物について素晴らしい研究をしている科学者がたくさんいます。私はアフリカの作物に大きな被害を与える寄生植物について研究していますが、このような素晴らしい環境で、様々な研究者に会って議論ができることはとても楽しく、魅力的でした。」
魅力的な非日常体験
奈良公園で朝8時から「鹿寄せ」を体験してもらいました。この時間に参加者が果たして参加するのかと危惧していましたが、結果100人以上が参加しました。ホルンを吹くと森の中から多くの鹿が集まってきます。その様子は、日本人が見てもかなりインパクトがあり印象に残るシーンでした。エクスカーションの際に、ガイドさんから、奈良の鹿は野生で1000年以上前から奈良に住んでいると説明していただき、奈良における人と鹿との関係について参加者の理解につながったと思います。
また、会場の庭園で「雅楽の演奏」を行いました。天気が良かったため、参加者は芝生の上に座って演奏を楽しみました。その後、狩衣装束の着付け体験も行いましたが、暗くなるまで写真を撮りあっており、貴重な体験ができたと喜んでもらえました。
本会議の主催団体である国際寄生植物学会の会長Harro Bouwmeester氏は、奈良での体験についてこのように話しています。「東大寺の大仏まで歩く道は本当に素晴らしく、とても印象的でした。また、鹿寄せやエクスカーションなども理想的なアクティビティだったと思います。食べ物も人も素晴らしく、誰もが奈良という町に感銘を受けていました。また、皆、今回の会場である能の舞台についても珍しがってSNSに投稿していましたが、このようなステージは見たことがなく大変印象的でした。加えて、日本人は本当に親切で、参加者のために最善を尽くそうとしてくれていました。」
日本で国際会議を開催する意義
日本には寄生植物の研究者が多いことから、今回の会議の成功によって学会における「日本の力」を示すことができたと思います。また、海外で開催される国際会議になかなか参加できない若い研究者が、日本で開催される国際会議に参加できたことで、自身の研究分野における国際的なネットワークを作ることにつながったと考えます。研究者としての世界が広がり、未来の選択肢が増えることは将来の研究に必ずプラスになるでしょう。
寄生植物は生活に密着したテーマも多くあります。例えば、野菜や穀物の生育を妨げる寄生雑草は世界中で問題になっており、そのコントロールの方法など、世界の食糧問題の解決につながるような内容も議論されています。このようなグローバルな課題に関するテーマを日本で議論することは開催の大きな意義の一つではないでしょうか。また、この会議をきっかけに多くの新たなコラボレーションが立ち上がっており、私自身も新しい共同研究が始まる予定です。
多様な参加者ニーズに応えた会議運営
私自身、国際会議を主催する立場は初めてでした。楽しかったことも多かった一方、参加者の国や文化的な事情により様々な要望があり、対応は簡単ではありませんでした。また、開催にあたっては、全ての参加者が楽しめるようにそれぞれの文化や慣習に配慮した運営を行いました。具体的には、プレイヤーズルーム(礼拝室)の用意に加えて、食の面ではハラルやヴィーガン、アレルギー対応のメニューの用意、提供の仕方の工夫など、ケータリング会社やレストランに協力いただき準備を進めました。
今回の学会を開催するために、国際本部の会長や副会長との連携が必要不可欠でしたが、多くのコミュニケーションを経ることにより、国際本部との一体感を持った運営ができたと思います。また、プログラムを組むにあたって主導権を持つことができ、興味深い研究をおこなっている第一線の研究者を招待できたこともプラスだったと感じています。その結果、様々な研究者とのつながりを作ることができ、今後のネットワークの拡大に大いに役立つと思います。
国際会議におけるダイバーシティと女性の活躍
研究者の男女の割合は、学生や大学院生では半々に近いのですが、ライフイベントなどもあり、上にいくほど女性の割合が減ってきてしまうのが現実です。こうした現状を踏まえ、今回の会議では、講演者のジェンダーバランスに特に配慮し、基調講演者及びセッションチェアを男女半々になるようにしました。さらに、地域的な多様性を反映するため、アジア、欧州、アメリカ、アフリカ、中東からそれぞれ講演者を選びました。国際会議におけるダイバーシティは今や当然のこととされ、議論の質や成果の多様性を促進し、学問の発展に寄与するため、国際会議の成功には必要不可欠な要素となっています。