誘致・開催レポート
「The 8th SIGGRAPH Conference and Exhibition on Computer Graphics and Interactive Techniques in Asia」を開催して
東北大学 電気通信研究所 教授 北村 喜文 MICEアンバサダー
国際会議主催者の生の声をお伝えする本コーナーの第31回目は、2015年(平成27年)11月に神戸市で開催された「The 8th SIGGRAPH Conference and Exhibition on Computer Graphics and Interactive Techniques in Asia」でConference Chairを務められた東北大学 電気通信研究所 教授 北村喜文様よりコメントをいただきました。会議概要
会議正式名称 | The 8th SIGGRAPH Conference and Exhibition on Computer Graphics and Interactive Techniques in Asia |
---|---|
開催期間 | 平成27年11月2日から11月5日まで |
開催都市/会場 | 神戸 / 神戸国際展示場 |
参加者数 | 7,050名 (海外からの参加者数:1,840名) |
ウェブサイト | http://sa2015.siggraph.org/ |
日本として立候補するに至った経緯をご教示下さい。また、誘致から開催決定までのプロセスについても教えてください。
コンピュータグラフィックスとインタラクティブ技術に関する国際会議SIGGRAPH Asiaは、この分野で世界最大の国際会議として主に米国で開催されてきたSIGGRAPHのアジア版として,2008年から毎年アジアの主要都市で順に開催されてきました。2009年には第2回の会議を横浜で開催しましたが、その後アジア諸国の国をあげての誘致活動などもあり、日本での開催はありませんでした。ところが一方で、SIGGRAPH Asiaが扱うデジタルコンテンツの分野はもともと日本が得意とし、今後の日本の成長の核に不可欠な分野でもあり、またこの分野で学術・文化・産業において国際社会を先導し続けるために非常に重要であることから、多くの方々から日本での再度の開催を望む声があがりました。このような背景で、日本誘致の準備を2012年から始めました。 2013年3月に日本政府観光局の国際会議キーパーソン招請事業(Meet Japan)で,SIGGRAPH Asia Conference Advisory Group (SACAG: 他の国際会議ではSteering Committeeに相当)のChair を招請していただき、国内のいくつかの候補都市と施設を視察してもらいました。そして、2013年9月に国内複数の都市がBid Document をSIGGRAPHに提出されるのに合わせて、私たちは日本として誘致するための働きかけを行い、国内の関連省庁や学会など30近い機関・団体様からいただいたサポートレターを提出しました。そして,2014年4月のSACAGの会議で審議され、SIGGRAPH Asia 2015 が日本の神戸で11月に開催されることが決まりました。その後、SIGGRAPHからConference Chair就任の依頼が私にありました。
立候補する上で工夫された点をご教示下さい。
SIGGRAPH Asiaはコンピュータグラフィクスとインタラクティブ技術に関する国際会議ですが、関連する技術分野はそれに限らず、ビジュアリゼ―ション、ロボティクス、ヒューマンコンピュータインタラクション、コンピュータビジョン、マルチメディア情報処理、通信コミュニケーションなど幅広い技術研究分野と、要素技術や応用などで強い関連を持ち、相乗効果を上げながら発展してきました。また産業的にも、ゲームや医療、デザイン、メディアアート、コンテンツ、教育といった多岐に渡る分野と関係しています。そのため、必然的に国内でも数多くの学会や団体と関連することになります。そこで、All Japanの体制で誘致を行うため、ある1つの組織が誘致活動を主導するという形ではなく、我々は独立した連絡係として活動を進めました。
「立候補で成功するための秘訣」は何でしょうか。
誘致活動開始当初、SIGGRAPH本体およびSACAGの委員の日本に対する印象は、日本は会場費や宿泊費、食費などのコストが高く、そのため、他のアジアの都市での開催に比べて企業や人が集まらないのではないか、したがって赤字になるといった危惧でした。その不安を払拭するため、誘致に協力いただいた自治体の協力も仰ぎながら、様々な資料や助成金等の可能性などを1つ1つ示しました。そしてたとえコストが少しくらい高くなったとしても、それを上回るbenefitが必ずあるということを粘り強く説明しました。しかし、最も重要だと思うことは、やはり人の信頼関係だったのではないかと思います。SIGGRAPH運営の幹部には,学生時代にStudent Volunteersで参加して以来ずっと関わり貢献し続けているという方も多いので、そういった方々に認めていただくには、やはり仕事を通してSIGGRAPHに貢献し認めてもらうということが大切だろうと思います。私も、何年か委員の末席に加わりながら、コツコツと仕事をして少しずつ認めてもらえたかなと思います。
会議を実際に開催するにあたって工夫した点をご教示下さい。
SIGGRAPH Asia は規模が大きい会議であるにも関わらず、開催都市と日やConference Chair の決定が会期の1年半前ということで、決まった後はかなりタイトなスケジュールをこなさざるを得ませんでした。しかも、前年の2014年のSIGGRAPH Asiaが12月に開催された後、我々の2015年が11月に開催されたため、実質的な準備期間は11か月しかありませんでした。そのため、一部の助成金申請や後援・スポンサーの依頼などは正式決定前から暫定的に開始していました。また、SIGGRAPH Asia 2015のプログラムの構想やそのためのProgram Committee の人選も早めに内々の調整を開始し、正式決定後は一気に動き出せるようにしました。このような内情をご理解いただき、当時柔軟に対応してくださった関係の皆さまに感謝いたします。
会議開催において心に残ったことがありましたらご教示下さい。
2015年は、阪神淡路大震災から20年、東日本大震災から4年の年でした。その他にも、事故や災害などにより世界中で多くの方が犠牲になっています。もっと生きたかった、頑張りたかったのに、夢の途中で諦めざるを得なかった多くの人たちがいます。私たちの役割は、そういった方々の気持ちを汲んで、バトンをしっかりと未来へ繋げることではないでしょうか。そこに、IT、もしくはデジタルコンテンツの力も役に立つはずです。少なくともそんな気持ちを込めたSIGGRAPH Asiaにしたいとの思いがありました。そのような考えから、今回のSIGGRAPH Asia 2015 では、revolutionary (革命)と evolutionary(進化)を組み合わせた“[re]volutionary”をテーマとしました。これは、破壊的な革新と創造的な成長のバランスと調和を意味します。 このような思いを、Opening Ceremony でお話しさせていただきましたところ、今の日本のことや日本人の率直な気持ちを世界の人に知ってもらえるいい内容だったなどと評価してもらえました。