誘致・開催レポート

オンライン開催のケーススタディー(日本皮膚科学会総会)

日本皮膚科学会では、コロナ禍により、2020年6月に予定していた「第119回日本皮膚科学会総会」を初めて全面オンライン開催に切り替えて実施しました。大規模会議のオンライン化を成功させるにあたり、どのような工夫があったのでしょうか。PCO(Professional Congress Organizer/会議運営専門会社)として本総会の運営を担当された 株式会社コンベンションリンケージ様にお話を伺いました。

オンライン開催のケーススタディー(日本皮膚科学会総会)

会議概要

会議正式名称 第119回日本皮膚科学会総会
開催期間 2020年6月4日~7日
開催都市/会場 --- / オンライン
参加者数

初のオンライン学会を開催~運営PCOの視点から~

日本皮膚科学会では、コロナ禍により、2020年6月に予定していた「第119回日本皮膚科学会総会」を初めて全面オンライン開催に切り替えて実施しました。大規模会議のオンライン化を成功させるにあたり、どのような工夫があったのでしょうか。PCO(Professional Congress Organizer/会議運営専門会社)として本総会の運営を担当された 株式会社コンベンションリンケージ様にお話を伺いました。

日本皮膚科学会総会の内容と規模について教えてください。

日本皮膚科学会総会は、日本皮膚科学会が年に一度開催する約5,000~6,000名規模の学術集会で、2020年は6月4日から7日の4日間、国立京都国際会館での開催が予定されていました。今回は「つなぐ」というテーマのもと、スポンサーセッションを含め、100以上のセッションが予定されていました。総会のオンライン化が決定されたのが、ゴールデンウィーク前であったため、それから実質3週間ほどで準備を行いました。

御社は、過去の総会運営も担当されていたのでしょうか。

従来は日本皮膚科学会事務局が総会運営全般を担当されていましたが、今回オンライン化ということでお話をいただきました。弊社は、2000年に「NetConvention®」を商標登録した当時から研究・開発・実績を重ねており、本総会では、同時並行12トラック・計180セッションの実施に伴い、約80アカウント(IBMやVimeo)を準備し運営しました。

オンラインにて学会総会を開催するにあたり、主催者となる日本皮膚科学会からはどのような要望がありましたか。

まず初めに、実際に会場にて計画していた実施形式をオンラインでも可能な限り維持したいとの要望がありました。また、聴講者に公平に単位を付与する必要があるセミナーについては、定刻開始が必須条件でした。
このため、セミナー等の内容や目的を勘案した上で、オンライン上での実施方法を

・会期中のある時間から定刻配信する一回限りの「オンタイム」形式。
・会期中あるいは会期以降の一定期間に、何度でも視聴が可能な「オンデマンド」形式。
・双方向でのコミュニケーションが図れる「ライブ」形式。

の3つの形式に整理しました。
ランチョンセミナーやイブニングセミナーについても、この3つの形式の中で整理を行い、実施しました。

会議を運営されるにあたって、何か工夫されたことがあれば教えてください。

単位に関わるセミナーにおいては、単位取得に影響が出ないように、参加者が時間通りにログインができることが重要です。このため、事前にオンライン開催に係る資料を案内し、数日前からテストログインができるような環境を提供しました。

4日間の運営はスムーズに進みましたか。

リアルでの会議運営においても、基調講演の後で参加者が分科会に移動する際に、時間をかなり要し開始が遅れるといったことがあります。同様に、今回のオンライン開催においても、前のセッション終了が少し遅れ、次のセッションが定刻配信であった際、短時間にアクセスが集中したため、サーバーがダウンするというトラブルがありました。サーバーが回復した際に、参加者がスムーズにログインできるようなサポートを行うことで、大きな問題なく運営ができました。

その他、オンライン開催ならではの対応や考慮すべき点などありますか?

オンライン開催にあたって運営側が考慮しなくてはならないのは、安定して高速にアクセスできる回線です。契約した回線が、24時間、常に一定の容量や速度がでているとは限りません。特に、夕方はトラフィックが混んでしまうこともあります。今回は、パックアップのために、複数の回線、サーバーツールで備えました。それでも、当日ふたをあけてみると、つながりにくい時間がありました。

オンライン開催にすることで、参加者数に増減はありましたか?

一般的には、実際に会場で開催するよりも、オンライン開催を取り入れた方が参加者が増えるといわれています。今回も、例年の参加者数から増加のログイン数がありました。このため、オンラインでの開催にあたっては、サーバーへのアクセス負荷を事前に十分に想定、検討することが重要になります。

海外の方からのアクセスはいかがでしたか?

各国から参加がありました。海外在住の日本人の先生がご覧になっていたり、英語によるセッションを、海外の先生がご覧になったりしていました。またパネリストとして本来は来日する予定だった海外の先生が、オンラインで参加されていました。

学術集会においては、講演者と参加者あるいは参加者間での双方向コミュニケーションが非常に重要な要素となりますが、オンライン開催にあたりどのような工夫をされましたか?

各セッションにおいて、聴講者がチャット形式で質問ができるような形式をとりました。そのセッションをとりまとめている座長が聴講者からの質問を選択して講演者に伝え、それに回答しながら進んでいくという形式をとることで、一定の双方向コミュニケーションが図られたと考えています。

SNSは活用されましたか。

日本皮膚科学会の事務局が、総会のTwitterアカウントを開設し、参加者に向けた情報発信をされていました。特に効果的だったのは、「当初予定していたリアル開催での参加予定人数を上回る人数がログインをし、大変盛況な会議になっている」というツイートです。講演者にも参加者にもそれが良い刺激となり、より多くのログイン数につながったと考えています。

発表資料の撮影や録画について、ルールを設けていましたか。

オンラインでは、スクリーンショットや録音を、完全に禁止することは難しいです。そこで、視聴者のログイン画面に、「録音・録画に関する禁止事項に同意します」という欄を設け、チェックをしないとログインできない形式をとりました。

主催者や参加者からはどのようなフィードバックがありましたか。

同時期に開催される予定だった医学系の会議は中止になったり、延期になったりする中で、日本皮膚科学会総会は、当初予定通りの日程でオンライン開催をしました。委託いただいて、1ヵ月弱の短期間によくやってくれました、という感謝の言葉をいただいております。また、現地にわざわざ足を運べない参加者も、オンラインだから参加できたという好意的なコメントもありました。

一方で、主催者もPCOの立場でも残念だったのは、お互いの意見を出し合った結果、実現させたというより、時間の制約の中でできるものをつくりあげるだけで精一杯だったという点です。
今後、オンライン会議を開催される主催者の方に向けてのメッセージをいただけますでしょうか。
まずは、主催の方にこういうことができないか、こういうことをやってみたい、ということを自由に考えていただくことで、オンラインの可能性も大きくひろがります。とはいえ、少人数のリモート会議と学会等の大規模なオンライン会議の運営とでは、準備期間も対応も大きく異なります。大規模なオンライン会議の場合、膨大な個人情報へ対応し、学会を安全に運営するための高度なセキュリティ環境が必要となり、準備に相当な時間が必要であることを十分にご理解いただきたいと思います。また、事前準備の段階で、PCOが関与する部分と、主催者が主体的に動く部分の責任範疇を明確にしておくことも大変重要です。
今回のオンライン会議の形態は、国際会議でも可能ですか。
時差の少ない日中韓などのアジア地域での開催については、これまでも実績がありますが、欧米を加える場合は運営の仕方に工夫が必要です。
今後の学会等会議の開催形態は、どのようになるとお考えですか。
今回の経験を通じて、オンデマンド機能を活用して、本来は同時に参加できなかった複数のセッションを後から聴講できる等、オンライン会議の良い点に気づかれた方が多かったのではないかと思います。

新型コロナウィルスの影響はまだ続くと考えられるため、リアルな会議とオンラインでの参加が可能なハイブリッド開催が当面は増えると推測します。

一方で、世界的に権威のある著名な先生に実際に会える、その講演を生で聴講できるというのは、オンラインでは経験できない部分です。人と会って、話し合い、交流するコミュニケーションは、やはりリアルならではのものです。当面は、オンライン化が進んでいくと思いますが、そのままオンラインのみの開催に向かうかというと、そうはならないと確信しています。

参加者インタビュー:
JNTO MICEアンバサダー京都大学大学院医学研究科 皮膚科学教室 椛島 健治(かばしま けんじ)教授

JNTOのMICEアンバサダーであり、また、「第119回日本皮膚科学会総会」に実際に参加された京都大学大学院医学研究科の椛島 健治(かばしま けんじ)教授に、オンライン開催の感想をお伺いしました。椛島教授は、同総会にセミナー講師や座長等として参画されていらっしゃいます。

参加してのご感想をお聞かせください。

率直に学会の在り方が変わってきたと感じました。オンライン開催したことにより、総会の参加人数が増えたことは評価できます。一方で、今回はオンラインセミナーのプレゼン講師や座長も経験しましたが、リアルな会議では聴講者の年齢層や反応を見ながら説明内容の変更をするところ、オンラインでの開催ではそうした対応がしづらい難しさがありました。

オンライン会議で感じたメリット、デメリットは。

オンライン会議の手法の1つにオンデマンドでの配信がありますが、これにより、これまでは同じ時間帯の開催で参加できなかった他のセッションを後から聞くことができるようになります。学術総会における教育セミナー等はオンライン化のメリットが大きく、今後、一層オンライン化を進めていくのが良いと思います。
一方で、デメリットとしては、知財保護の観点からオンラインで共有できるデータに限りがあるため、論文発表前の新しい研究成果の発表等がほとんどなかったことがあげられます。
また、リアルでの開催と異なり意見交換ができる場が少なかったため、学術分野に関するディスカッションが貧弱になりがちでした。双方向でのコミュニケーションを意図し、セミナー等では講演聴講者からチャット形式での質問を受け付けるなど工夫をしましたが、チャットでの発言内容を担保するためには、ハンドルネーム等ではなく実名で登録させる方法が良いと思いました。

今後の国際会議についての先生のご意見は。

前述の通り、新しい研究成果の発表やそれに対するディスカッションという点では、face to faceでの開催に代わるものはありません。海外の著名な研究者に実際に会いディスカッションをする、そうした研究者と個人的な関係を構築する、また、そうした関係性を通じて研究分野における日本のプレゼンスを向上させるということは、オンラインだけで可能なことではありません。こうした学術研究のコアに関わる部分については、今後ともリアル開催が必要だと強く感じています。
なお、当分の間は、ハイブリッド開催が続くと思いますが、テクニカルトラブルへの対応にはまだ改善の余地があります。日本でのオンライン開催の評判が悪くならないように、会議分野に関わらず、日本全体でノウハウをシェアしてトラブルを少なくすることが重要です。

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