誘致・開催レポート
地域社会を巻き込んだコンテンツと運営体制で、地方開催を成功に導いたAPRIM2023
東日本大震災から復興した福島県郡山市で、多くの国々からの参加者を迎えAPRIM2023が開催されました。地方開催では、国際会議の運営に必ずしも慣れていないことで、課題や懸念もありますが、APRIM2023では、それら一つ一つを地元のステークホルダーとクリアし、最終的に会議そのものだけでなく関連企画等により、一般市民も含めた幅広い層の参加を得た国際会議となりました。チャレンジを地元を巻き込んで開催成功に導いた組織委員会の渡部委員長及び国際天文学連合のデブラ・エルメグリーン会長にお話をうかがいました。
会議概要
会議正式名称 | Asia-Pacific Regional IAU Meeting 2023 (APRIM2023) |
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開催期間 | 2023年8月7日~8月11日 |
開催都市/会場 | 福島県郡山市 / ビッグパレットふくしま |
参加者数 | 474名(会場参加:385名、オンライン参加:89名) |
ウェブサイト | https://aprim2023.org/ |
上席教授 渡部 潤一 教授
APRIM開催における日本の役割
前回日本で開催した2002年は、大型装置の一つであるすばる望遠鏡が立ち上がって数年というタイミングで、日本の天文学として大きなトピックのある時期でした。今回は、過去20年間日本で開催していないこと、またアルマ望遠鏡の稼働など多くの進展があったことから、日本学術会議の議論の中で日本へ招致しようということになりました。
アジア太平洋地域において、日本はアメリカと共に天文学をけん引してきましたので、世界の天文学の発展と振興に対する責任と義務があります。APRIM2023の開催は世界の天文学におけるリーダーの1カ国として、日本のプレゼンスを更に高めることになったと考えています。
誘致にあたっては、郡山コンベンションビューローから地元の情報だけでなく、放射線量に関する科学的な情報を得て、福島での開催にあたっての安全性を説明しました。
関連産業へのインパクト
日本の光学製品は非常に優れており、世界的に高い評価を受けているメーカーも多いことから、今回は天文に特化した企業に数多く協賛いただきました。出展した企業の今後の営業活動にもプラスになったようで、研究者だけでなく海外から参加した企業との良いネットワーキングの場になったと非常に喜んでいただきました。これは予想外の成果でした。
市民への啓発とレガシー
天文は一般の方にも関心の高いテーマの一つであるため、一般的に天文学関連の会議では国際会議を開催する際に必ずパブリックレクチャーを実施しています。こうした取り組みは、この分野の研究の面白さやその成果を幅広く理解していただくためにも大切なことだと思っています。また、後援名義をお願いした地元の新聞に、海外からたくさんの会議参加者が福島に来られること、そして天文学の議論をしているということを記事にしていただき、市民にも情報発信をすることができました。
福島県天文協会はAPRIM2023会場内に写真パネルを展示し、福島県歴史資料館では館側が自発的にAPRIM2023関連企画として特別展を開催しました。江戸時代の歴史資料の中に出てくる天文現象の目撃情報や日記など、資料館が持っている資料の中から天文との接点を探して作った独自の企画展で、大変素晴らしい試みだったと思います。その他自発的に開催された星の観望会もあり、このように地元の方々が各所でイニシアチブをとり、さまざまな催しをしていただけたことは、非常に良かったと思っています。
ダイバーシティの取り組み
国際天文学連合(IAU)は、基本的に国単位のメンバーシップ(ナショナルメンバー)から成りますが、そうでなくとも個人としての参加を推奨しています。このため、アジア太平洋地域でナショナルメンバーになっていない国の方で、積極的に研究を行い、研究成果を発表しているようなアクティブな研究者にはお声がけをして、福島に来ていただくよう旅費の補助をしました。航空運賃が非常に高騰していましたので、今回は約200名の参加者から旅費補助の申請がありました。
また、組織委員会独自に、どうしても来られない参加者に対し、参加登録費を免除としたオンライン参加の推奨や、最終的に宿泊代程度を補助するなどのサポートを行いました。これらは、ダイバーシティを意識した、特に、まだ天文学者の少ない国や、若手で学会参加費の工面が難しいようなケースについてのサポートとしては、これまでと異なる取り組みでした。
若い研究者の参加による今後への期待
今回のような国際会議は、本来若い研究者のための研究会なり、学会であると考えています。自分の国で開催されるとなれば比較的気軽に参加できますし、会議の場で見聞きしたことは、若い方の今後のキャリア形成に非常に大きなインパクトを与えると思います。今回、20人ほどの大学院生が運営に参加しましたが、国際会議がどのように運営されていくのかを身をもって体験できたことは、今後、同じような会議を日本で開催する際の大きな糧になったのではないでしょうか。また、今後研究者になるかどうか、少し迷っているような学生たちが、こうしたエキサイティングな会議に来ることで良い刺激を受け、研究者のキャリアパスを選んでくれるのではないかと期待しています。
今回、特に若い参加者が、研究者同士の交流だけではなく、福島での滞在も堪能したようです。郡山の皆さんに歓迎され、美味しい食べ物やお酒を飲み、とても楽しんだことについて、「他では経験できない良い経験となった」というコメントをもらっています。
福島・郡山で開催した意義~地方都市における国際会議
郡山での開催はかなりチャレンジングだったと思います。会議施設(ビッグパレットふくしま)が1998年に開館して以来、本格的な国際会議は2回目という状況でした。
震災後に会場にインターネット回線が整備され、500人規模の国際会議が開催できたことは地域にとって大きな実績になったと思います。海外の方に対する接し方や、準備の仕方等の経験が必ずしも十分ではなかったため、組織委員会がバス会社と臨時バスの運行について直接交渉し、交通情報を英語化したマニュアルを作りました。一方、飲食店の多言語対応情報や、エクスカーション候補地の選定等については、郡山コンベンションビューローにご協力いただきました。
この国際会議の開催を通して、市内のお弁当業者がベジタリアンだけでなくハラルやヴィーガンの存在を認識されたことは、地域社会における一つの大きな成果になったと思います。事業者からも、「非常に勉強になったので、今後もこうしたものをどんどん取り入れていきたい。」という大変前向きな声がありました。
様々な課題がありましたが、開催に向けて一つ一つ丁寧に対応していった結果として、郡山は国際会議開催地として大きな経験を得られたと思いますし、次の誘致への自信につながったのではないでしょうか。APRIMの開催をきっかけに、国際化に必要な対応が進んだのであれば、我々としても地方で開催した意義があります。今回の経験を通して、国際会議を招致する人や組織委員会が情熱をもってあたれば、より多くの地方で国際会議の開催が可能であると感じました。今後も、地方都市の魅力を生かして開催される国際会議が続くことを期待します。
サステナブルな会議運営のために
紙資料の配布は、簡単なプログラムのみ。