誘致・開催レポート
IFAC World Congress 2023開催~世界の自動制御の英知を横浜から発信!
日本が世界で最も先進的な技術と実績を持つ「制御技術」に関する国際会議「IFAC World Congress 2023」が横浜で開催されました。42年ぶりの日本開催であり、コロナ後の本格的なリアル開催に対する関係者の期待が高い中、“事前の期待をはるかに超えた”、“リアルで参加して良かった”という声が多く聞かれ、参加者・主催者共に満足度の高い国際会議となりました。
成功の要因をIFAC2020-2023会長の淺間一先生にうかがいました。
精密工学専攻 淺間 一 教授
会議概要
会議正式名称 | IFAC World Congress 2023 |
---|---|
開催期間 | 2023年7月9日~14日 |
開催都市/会場 | 横浜 / パシフィコ横浜 |
参加者数 | 3,206名(会場参加:3,034名、オンライン参加:172名) |
ウェブサイト | https://www.ifac2023.org/ |
制御技術の重要性と日本のリーダーシップをアピール
IFACは1957年設立の歴史と権威ある学会です。日本はこの分野への貢献度によってカテゴリー4とされていますが、これは日本とアメリカの2カ国のみが得ている最高位です。
「制御技術」はエネルギー、環境、災害、パンデミック、SDGsなどの社会課題の解決に必要なテクノロジーであることから、会議で議論されるさまざまなテーマはこれからの世界にとって重要なファクターとなります。各国を代表する参加者は自らの研究分野の重要性を自覚し、研究者にとって必要な多くのネットワークを求めて、横浜に集まりました。
今回のIFAC2023を日本で開催することによって、日本が①この分野におけるリーダーシップを保っている。②産業や技術革新におけるポテンシャルを保っている。この2点を世界にアピールできたと考えています。
進むダイバーシティ
私がIFACの会長に就任してからDEI*に関するCommitteeを立ち上げ、具体的な取組をおこなってきました。例えば、国際会議に出席する女性への財政的なサポートとしてベビーシッターの費用を負担する取組の実施や、DEIの取組に対する表彰も行っています。以前のFellow表彰では女性の受章者は1~2名でしたが、今年は25名中7名の女性が表彰されました。また、今回のプレナリートークについては、様々な人種、性別、年齢、障害のある方等多様性を考慮したスピーカーの人選を行うなど、DEI推進を積極的に行っています。
その他の会期中の取組として、10~15歳の女子を対象に「Girls in Control」と呼ばれる「制御工学」を紹介するワークショップを開催しました。同ワークショップは、将来この分野に進む理系女性を増やすことを目的としており、制御工学を専門とする大学教員や女子大学生が運営し、制御技術の大切さや面白さを知ることができるプログラミングを体験していただきました。
*「DEI(ディー・イー・アイ)」:「Diversity(ダイバーシティ、多様性)」「Equity(エクイティ、公平性)」「Inclusion(インクルージョン、包括性)」の頭文字を取った略語で、多様性とアイデンティティを尊重し、かつ、公平な活躍機会を与えられている状態を意味する。待ち望まれていたリアル参加と高い参加者満足度
多くの参加者から、会議の成功を祝うメッセージをもらいました。開催直後のアンケート結果においても8割以上の参加者が「satisfied」「somewhat satisfied」を選んでおり、大変満足度の高い会議になったと思います。3,200名の登録者の内、オンライン参加者がわずか100名であったことからも、コロナ禍を経て、対面でのディスカッションが待ち望まれていたのだと思います。更に開催地が日本ということで、食事をはじめとする日本の文化に触れたいという参加者が多かったと感じています。また開会式に天皇・皇后両陛下のご臨席があった事も、参加者に特別なこととして理解され印象に残ったようです。
IFAC2023開催によるレガシー
今回、講演会・ワークショップの他、海洋ロボットコンテストを市民に公開する市民フォーラムを開催し、「制御技術」がどんな所で使われているかを見てもらったことで、地域や一般市民の理解を得ることができました。また、横浜観光コンベンションビューローでは、会議開催への支援だけではなく、市内企業を募り、展示スペースでの共同出展を働きかけるなど、国際会議の機会を活用した、ビジネスチャンスの創出や経済活性化を図る取り組みを実施しました。
また、50社・130名の科学者やエンジニアからなるIFAC「Industry Group」のメンバーがフォーラムやテクニカルツアー、展示会などを企画・開催したことは、関係者のみならず開催地である日本の社会・経済にとって大きなレガシーになったのではないでしょうか。
国際会議の自国開催は「発展への起爆剤」
国際会議の誘致・開催には時間と労力がかかるため消極的な人もいるかもしれませんが、研究者は自らの研究だけ進めればそれで良い、わけではありません。自身の研究を社会に還元する事が必要であり、そのためには同じ分野を志す他の研究者とコミュニティを作り、研究の成果を社会に発表し、活用してもらうことが重要であると考えます。そして、国際会議はこのコミュニティを作るために大いに役立ちます。国際会議の自国開催は、研究者や産業界がネットワークを拡大し、さらなる発展への起爆剤となる可能性があるという点においても重要です。
IFAC WC 2023は、新たなビジネスチャンスや共同研究の可能性などを求めて参画した企業とアカデミアサイドの両方にとって「産学連携の可能性」につながる良い機会となったと思います。今回の国際会議の開催を通じて、制御工学に関する横断的な連携強化と学術の深化、発展に貢献できたと考えています。